本題…?


せつらは茫とした瞳で何か考えながら歩いていた。
そろそろ夕刻。所謂チェックインする客が多くなる時間帯であろう。
しかしこの旅館は静かであった。
玄関の方で、自称女将声が聞こえてきた。
意外にも、新しい客が来たようだ。
数人の足音と気配がせつらのいる方へ近づいてくる。
せつらは、さも素知らぬような顔をしながらぶらぶらして遣り過ごすことにする。
何となく気まずいのである。
自称女将とその後ろに客らしい男性2人が続いて行った。
「あ」
すれ違い際、せつらが春風のような声を上げる。
2人の客のうち、上から下まで黒で統一した長身の男。
黒く長い髪の合間からこぼれたその美貌――。




「お風呂はいかがでしたか?」
先程の客の案内から戻ったらしい自称女将が声を掛けてきた。
「うん」
「お夕飯までまだ時間がありますから、散歩なさって来てもいいかと思いますよ。こんな狭い所にいるよりは…」
「あー…」
「いえ、私なんぞが色々云うものじゃあないですがね。――お客様、〈区外〉へは、初めて?」
せつらは首を振って見せた。
「そうですか。貴方やご一緒のお客様のような綺麗な方は、こっちにはあまりいませんから。なかなか歩きにくいですかねぇ?」
「う〜ん」
せつらは春風のように呟いた。
しかし美貌の方には、どことなく悩んでいるような気配が浮かんでいた。
その色が、不意に変わった。
「ねえ、おばあちゃん。お願いがあるんだけど――」




部屋に戻るせつらの足取りは複雑なものであった。
今にもスキップでも始めそうな軽やかさの癖に、その足は何に囚われているのか酷く重たそうなのであった。
その手には、何やら小さな紙袋が下げられている。
部屋の襖を開いたせつらは、刹那、息を留めた。
メフィストは、窓際に腰掛け、窓の外を眺めていた。
しっとりとした黒の髪を傾き始めた陽の光に煌かせ、下に広がる小さな温泉町を見下ろす姿は、さながら天界から民を見下ろす憂鬱な神のようだ。
「ただいま」
気を取り直し、動揺を抑えて声をかけると、優雅な動きでせつらの方へ振り向いた。
「…おかえり」
微かに微笑むその美貌は、どこか翳りがある。
幸か不幸か、逆光の所為でせつらはそれに気付くことはなかったが・・・
せつらはせつらで、別のことを処理することで精一杯だった。
「……お、おまえ、メフィスト?」
「…な、お、おかしいかね…その――」
「浴衣なんか着るんだな」
まさしく、せつらが身につけているのと同じ旅館の浴衣である。
「独自に進化を遂げた愛息子の御心遣いだよ」
メフィストは苦笑混じり云った。
「?」
「それより…君も人のこと言っているが――」
「うーん…僕も、代々の教育を受けた親友の親切心に頼ってね、ね――変?」
滅多にしない満面の笑みを浮かべて、首を傾げてたせつらに、メフォスとは無言で頭を横に振った。
髪がゆるゆると揺れる。
「・・・ちゃんと乾かしてないだろ、髪」
「え?――あ、ああ。だがタオルで拭いたが・・・」
「うーん・・・」
何と言ってやろうか、と考えたせつらだったが、それより前にメフィストの方で声を掛けてきた。
「随分、ゆっくりしていたな」
「あー。うん。ちょっとね」
「?」
「――それより、さ」

何となく様子を窺いながら、手にしていた紙袋を持ち上げる。
見ていたメフィストは何かね?とでも言いたげな目で小首を傾げた。


「散歩、いこ?」




5→
お客。イタズラです;;
退○針の大摩センセも温泉♪――となれば、当然相方は妖くんでしょう。
知らない方、すいません(汗)スルーしてやって下さい。