「よ。藪医者」
院長室の扉をノックもなしに登場した想い人に、メフィストは大いに焦っていた。
混乱気味の頭で訪問理由を検索してみたが、特に思いつかない。
兎に角、この動揺がばれぬようにと必死に平常を装って、メフィストは彼を迎え入れた。
「…何かね?今日は診察日ではあるまい」
完全に隠し切れている自信は無く、自然と眼を手元の資料へと落としてしまう。
「…まーね」
春風の様な声で彼はそれだけ言った。
「怪我でも?――見た所、残念ながら正常に見受けられるが?」
「お陰さまで」
殆ど棒読みで返される言葉ですら愛おしく思えてしまうのは、もう重症だろう。
「では?」
「…差し入れ」
ガサガサと聞き慣れた紙の音に釣られて、漸く視線をあげれば、入口の所に立ったままの想い人が、手にした紙袋を持ちあげて見せて来た。
「…ほう?」
「…なんだよ」
「ヤケにサービスがいいな。何か企みでも?」
「そんなに嫌なら返せ」
受け取りながら言った嫌味に、彼は子供のように下唇をだして、フイと顔をそむける。
そんな表情や仕草に、思わず笑みがこぼれる。
「有り難く頂戴する」
それは、突然の差し入れにか、思わぬ訪来にか。
どちらにしても、メフィストには同じ程の価値があるように思えた。
「……じゃあね、メフィスト」
一体、どれだけ好けば気が済むのだろうか。
仮令、叶わぬ想いなのだとしても、どうしても愛おしさは止められぬ。
「ああ、せつら――」
扉の向こうへと消えて行く背中に、メフィストは誰にも聞きとれぬくらい小さな声で呟いた。







大好き―――













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