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「ねえ。明日、学校に来て――」
そういう命令が下されたのは、金曜深夜だった。
お風呂から戻って来た所に、計ったように鳴りだした並中校歌。
明日、ですか?と聞き返すと、何度も言わせないで、と言われた。
「教員用の玄関を開けておくから」
そこから入れ、ということだろう。
開けておく、という表現が幾分気にかかるが、取り敢えず了解の旨を伝える。
「じゃあ、9時に」
待ってるよ――と言い残して通話は切れた。
「なんだ、デートか」
待ち受け画面に変わったケータイを呆然と見てた俺に、幼い家庭教師は楽しそうに言った。
「で、デートっていうか・・・。並中だし」
「アイツらしいな」
「付いて来るなよ」
「そんな趣味はねえよ。暇もな」
どうだか、と内心で思う。
以前、1日デートをしっかり監視されていたことがあった。
彼曰く、全く気付かねえ様じゃあ、マフィア失格だな――
それは嬉しい――とは、死んでもいえないが。
何にしても9時には並中にいなければならない。
逆算して目覚ましをセットし、その日は早々に寝床に就いた。
土曜日。
今日は朝から天気が良い。
デート――かどうか分からないが、呼び出された場所が場所なので、あまり悩む事もなく制服に袖を通し、綱吉は学校へと向かった。
手段には自転車を選択したため、8時50分には人気のない校門を潜った。
グラウンドや体育館で部活に励む掛け声を遠くに聞きながら、普段は滅多に使わない「教員用玄関」から学校へ入る。
一応、靴は自分の下駄箱まで持って行き、代わりに上履きを出した。
そう言えば、学校とは聞いたが、教室までは聞いていない。
聞いてはいないが、彼がいそうな所と言えば容易に見当は付く。
「・・・応接室かなぁ」
誰に確認するでもなくそう呟いて、シンと静まりかえった階段をひたひたと上がり始めた。
ところが、ノックした応接室の戸を開けてくれたのは、恋人ではなくその右腕(?)だった。
「ああ、姐さん。おはようございます」
この呼び方。
彼らのボスの女――という意味であり、つまりは「ダメツナ」と呼ばれていたはずの自分の事を指している。
彼らのボス、と付き合い始めた頃から、秘かに風紀委員の間に広まっていたらしい。
初めて知ったのは、1月ほど前。
時間ギリギリに登校した自分に、遅刻者チェックをしていたリーゼント達が、先程と同じ挨拶と同時に頭を下げた時だった。
一度は止めさせるように「ボス」に行ったのだが、あっさり流されてしまった。
そして、最近すっかり定着してしまっている。
風紀委員に、ではなく、学校全体に、である。
恋人が否定しなかった事で風紀委員に定着し、この学校を支配する風紀委員に定着した事により、学校全体の常識となった。
あ、おはようございます、などと普通に返してしまう自分も自分だが。
彼と付き合いだしてから、変な意味で、神経が図太くなったと思う。
「えっと・・・」
「委員長は屋上にいらっしゃいます。姐さんはそちらに来るように、と伝言を受けております」
「屋上・・・。ありがとうございます」
「へい」
天気は良好。
屋上へ続くアルミ製の扉を開けると、心地よい風がふわりと顔をなでた。
「やあ。思ったより早かったね」
風に乗って、少し低い声が降って来た。
「あ。おはようございます、ヒバリさん」
ニコリと微笑みながら、出入口の屋根の上に腰かけた雲雀に声を掛けた。
おはよう、と言いながら、彼はスタッっと飛び降りて来た。
漆黒をなびかせて軽やかに舞い降りた雲雀にうっとりと見惚れる自分。
「ちゃんと、来られるんじゃない」
時間通りに、と軽く睨まれる。
「時間も遅かったですし、ヒバリさんのお呼び出しでしたし・・・」
ふうん、と納得していないような声を出したヒバリだったが、機嫌自体はそれ程でもなさそうだ。
「えっと、それで、用事というのは?」
「ない」
「へ?」
我ながら間抜けな声が出た。
それに対して、間抜けな声、と正確なお言葉が飛ぶ。
「何?用がないと、恋人呼び出しちゃダメな訳?」
「え、いえ・・・構いませんけど」
何となく慌ててそう答えると、だよね、とキツイ感じの笑みを浮かべた。
まあ、本心ではあるのだけれど。
こっち来なよ、と屋上の隅へスタスタ歩いて行く黒い後ろ姿に、ま、いっかと付いていく。
雲雀はそのままストンと腰を下ろした。
その横に体育座りで並ぶ。
「ああ。何か、気持ちいい風ですね」
「うん」
彼と付き合い出してから一番増えたのは、こうした時間だと思う。
特に何をするでもなく、それぞれに本を読んだり、ゲームをしたり、お茶を飲んだり、適当な雑談をしたり・・・
ただ、同じ空間を共有している、という時間。
実は結構好きな時間だった。
傍から見ていると“歩く自分勝手”である雲雀も、今日の様に進んでこうした時間を作ってくれる。
というか、9割雲雀からなのだけれど。
でも、そうして我侭に「一緒に居る」ことを求めて来る雲雀。
雲雀も同じことを思ってくれているのだろうと、自惚れてしまう。
そういえば、と何となく声を掛けた。
いつの間にか仰向けになっている彼は、何?と呟く。
「さっきの台詞なんですけど」
「さっき?」
眩しそうにこちらを見上げる彼に、用が無いと呼び出しちゃいけないの?とかっていうやつです、と答える。
「ああ。あれが、何?」
「なんか、恋愛ドラマのお決まりっていうか・・・」
「そうなの?そんなもの、見たこと無いんだけど。・・・好きなの?」
「や、母さんが偶に見てるから。でも、そんな科白、自分に向けられて言われるとは思ってませんでした」
「嫌なの?」
「そんなことないですよ。あ、でも、もっと時めいた方がよかったのかなぁ、オレ」
恋人なんだし、と笑う。
「そんなものなの?」
「まあ、流れ的には。でも以前は、そんな自己中心なのってOKなものなのかなぁと思ってたけど――」
「・・・・君だって、OKしたじゃない」
「ええ。だから、そんなものなんだなぁ、って思って」
恋は盲目って言うんですかね、こういうのを、と言うと、雲雀は口を尖らした。
「しらない」
プイとこちらに向いていた顔を戻し、ついでに瞼も閉じてしまった。
「あ、怒らないでくださいよ」
「嫌なら帰りなよ」
「嫌だなんて言ってないじゃないですか」
「だって、自己中心的なんでしょう、僕は」
ね、ツナヨシ、ともう一度こちらを向く灰色の瞳は、案外楽しそうだ。
「そうでしょうね」
でも、そこがヒバリさんのいい所なんですけどね、と付け加える。
「我侭だからね、僕は」
「とことん、が付きますね」
「そうだね」
どこか嬉しそうに笑って、再び目を閉じる彼をそっと見つめる。
ああ、なんて綺麗なんだろう。
そう思う。
きっと、一般的には、整っているとか、綺麗だとか、美人だとか、そういう評価はそれ程高くはないんだろう。
そういう意味では、どこぞの某マフィアの次期「霧の守護者」の方が綺麗だと思う。
「仕草とか表情、とかなのかなぁ」
「・・・何が?」
内緒です、と答えると、あっそ、と言われた。
「ねえ、ツナヨシ」
「何ですか?」
「こっちに寝転んで」
「え?」
瞳を閉じたままの雲雀は、左手でコンクリをペチペチ叩いた。
「早く」
言われて、戸惑いがいがちに、並ぶように寝転ぶと、ズイと覆いかぶさって来た。
「えっ!!」
「僕は、我侭だからね」
そう言って、彼らしい笑みを浮かべた顔がふわりと降りてきた。
黒髪が顔に触れる前に、そっと目を閉じる。
柔らかい、触れるだけの口付け。
すぐに離れる気配に合わせて、ゆっくりと瞼をあげる。
腕の長さしか離れていない彼を見上げながら、ヒバリさん?とその名を呟く。
相変わらずな笑みを浮かべた彼は、言ったでしょ、と呟いた。
「我侭だからね、僕は」
そんな彼に、知ってますよ、と笑って見せる。
「恋人ですもん」
そうだね、と笑う彼の白い首に、そっと腕を回した。
昼も近くなった陽射しの中、柔らかい風が2人に呆れたように吹き去って行った。
なんだろなぁ・・・コレ。
良い言い方をすれば、甘甘・・・?
本当に何も考えずに書き始め、そして書き終えた(というか、強制終了した)ため、例によって、山もオチもない・・・(汗
結局今回は、「ヒバリの用事」が思い付かなかったため、「無い」ということになってしまいました。
(そんな適当なのかよ、烏兎・・・)
最近、某南国果実サマといる時間が長い所為か、ヒバリさんのアホ度が増し気味だったため、強制すべく(?)1827にしてみた・・・のですが、どうも烏兎には無理ですね(ヲイ)
いつかリトライします(と思います)
取り敢えず、お付き合いありがとうございました。
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