僕は、そうしたことに無関心でなければならないというのに。
そうしなければ、この位置に立っていられないというのに。
位置
「なんですか。出会い頭にトンファーで攻撃してくるなんて」
「なんですか――じゃないよ。君、ホントに人を苛々させるのが得意だよね」
深夜の並盛町の公園。
頼りない街灯に照らされた其処は、あまりにも非日常的で、僕らにぴったりだと思った。
彼は、不機嫌な表情を隠すこともなく、次々と攻撃を繰り出してくる。
僕は、なかなか愉しんでいたのだけれど、それを隠して、やる気なさそうに装いながら彼の攻撃をさばいていく。
彼とこうして戦りあうのは3カ月ぶりだった。
話をするのも、久しぶりだ。
会えないのは、圧倒的にこちらに非がある。
それでも・・・
「そう言えば」
「はい?」
雲雀恭弥は、全く手を休めることが無い。
こうして、2人で会話をしながら何度も攻撃を仕掛け、お互いの攻撃をさばく。
相当な運動量だろうに、息を乱していない。
「草食動物たちが言ってたよ。僕と君は似てるって」
「・・・君と、僕が、ですか?」
意外だった。
この男と僕と、何処が似ていると言うんだろうか。
しかも、達――ということは、一人の感想ではないということだ。
僕と、彼が、似ている。
少しぼんやりした隙を突かれて、腕をトンファーがかすめた。
トンファーについた鋭い棘に、腕の皮が多少持っていかれる。
痛い――と思う気持ちも忘れて、反撃を試みる。
彼が楽しそうに、笑う。
彼は、本当に楽しそうだ。
彼は何時だって、自分の感情に正直で、何時だって楽しそうだった。
こうして、同じ場所で、同じように血を流しているというのに、どうしてこうも、遠く感じるのだろう。
こうして、何度も、2人で、生と死の境界線の一歩手前に立ちながら、僕らのこの位置はちっとも変わらない。
自分の位置と彼の位置は平行線上をたどり、少しも近づく気配を見せない。
お互いが同時に振るった武器が大きな音を立ててお互いをはじき返し、お互いにはじき返される。
少し距離をとって、お互いに制止する。
2人の殺気のその間に―――
か細い一本の線がひいてあった。
昼間に遊びに来ていた子供が、木の枝か何かで書いたであろう、一本の筋。
あぁ、そうか――と僕は理解する。
当り前のように、僕らはそこに立っていた。
生と死との境界線の一歩手前。
僕は、何時だって死と同じ方にいた。
彼は、何時だって向こう側にいた。
こうして2人、血を流している最中ですら。
「・・・・どう、したの」
彼の驚いたような顔。
戸惑いが含まれた表情。
「どうかしましたか?」
問い返す僕に、少し間を開けて、
「目」
とだけ告げてきた。
そっと、目に手をやる。
「あ・・・・」
手が濡れた。
僕の瞳から零れたそれが何であるのか、僕にはすぐには分からなかった。
袖で拭こうとして、袖口が真っ赤になっていることに気付く。
それを見て、体中が痛むことに気付く。
汚れていないところを探して、拭った。
拭った先から、ソレはまた零れて、ついでに傷口から血もこぼれた。
そうだ。分かっている。
僕は、彼と距離を詰められるなどと思ったことはない。
僕は、彼に触れられるなどと思ったこともない。
それでも。
彼と同じ位置に立ちたかった。
僕は、何時まで経っても、その位置に立てない。
こんなにも似ている彼が向こうに立っていられるのに。
「君。なんで、泣いてるの」
困ったような、呆れたような声。
そうだ。
僕は、この声が聞けることが嬉しかった。
彼が、他の誰でもなく、僕に執着してくれている事実が嬉しかった。
この、傍から見れば何の意味もなさない行為が、2人には必要であることが嬉しかった。
「どうして・・・でしょうかね」
僕は、そうしたことに無関心でなければならないというのに。
そうしなければ、この位置に立っていられないというのに。
次々あふれるソレと格闘するのをやめて、手についたそれを眺めた。
「まぁ、そのうち止まるでしょう」
こんなものですら、僕の位置を暴く。
病んで来ました。
ご心配なく。
死帳で小説書いてた頃は、こんな文章ばっかでした。
薫衣的には、大分懐かしい感じの文章です。
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