並盛中学校校門前。

一人の学ラン・リーゼントが2番目に早く登校し、校門前のごみを拾っていた。
風紀副委員長、草壁哲也。
もちろん、一番早く登校したのは、彼のトップ。風紀委員長の雲雀恭弥。
雲雀は応接室で仕事をしている。
予鈴が鳴る前には、ここへ遅刻者チェックに訪れるだろう。
その前までに、できるだけここを綺麗にしておかなければ――とごみを拾いながら草壁は今日も己の仕事へのやる気に燃えていた。


その時・・・

「ん?」

並中の前の道の右側から、背の高い男が歩いてくるのが見えた。
はっきりとは分からないが、見たところ、その人間が着用しているのは並中の明るい色のブレザーではないようであった。
毎日この時間に登校している草壁は、他の風紀委員がもっと遅くに登校してくることを知っている。
生徒たちもそうだ。
一番早く登校する一般の生徒でも、あと30分は来ない。

誰か近所の人が朝のウォーキングでも始めたのだろうか――そう思って目を凝らした瞬間、

「・・・!!」

全身に悪寒と緊張が走るのが分かった。

軍服を思わせる濃緑の詰め襟。
この学校ではおよそ許されないであろう、だらだらとした着こなし方。

「・・・黒曜中の生徒」

その少年はまっすぐにこちらに向かって歩いてくると、草壁の目の前でとまった。

「おはようございます」
「・・・・おはようございます」

相手の穏やかな物腰に一瞬拍子抜けしながらも、風紀委員らしく挨拶する。

「今日はいい天気ですね」
「・・・はあ・・」

にこにこと世間話を持ち出してくる黒曜生相手に、どうしたものかと頭をフル回転させる。
しかし、頭が答えをはじき出す前に、
「雲雀君はもう、学校に来ているのですか?」
「!?」
相変わらずの穏やかな物腰で、とんでもない人物の名前を出してきた。

「雲雀に・・・何のご用でしょう」

慎重に、すきを見せないように尋ねる。
そうしてから、気づく。

この男には、隙が全くない。

焦る草壁を気にも留めず、少年は手に持っていた紙袋を取り出した。
「これを、渡して欲しいんですが」
思わず受け取ってから、中身をちらと見て驚く。
「・・・コレは・・」
「クフフ。お弁当です」
手作りなんですよ――と楽しそうにほほ笑むのをあっけにとられて見て、
「これを、・・・雲雀にですか」
「ええ。間違いのないようにお願いします」
少年は実に楽しそうであった。

「失礼ですが、お名前は?・・・何と言って、雲雀に」
「あぁ・・・そうですねぇ・・・」
少年はしばらく考えている風だったが、

「“愛がたくさん詰まっているので、味わって食べてください”とでも言っておいてください。そう言えばわかります」
「は?!あ、愛・・・ですか」

固まる草壁の肩を気軽な感じでポンっと叩くと、

「それじゃあ」

にこりと笑って、

「そういえば、差し歯、入れたんですね。お大事に」

去って行った。

草壁は茫然と見送ってから、先ほどの言葉を何度も頭の中で反芻し、


「・・・野郎・・・何で歯、抜かれたこと・・・」


ある確信を持って、去っていく少年の背中を見つめた。











その朝、遅刻者チェックが始まる前に、風紀委員の副委員長以下重役数名が集まって、会議が開かれた。
丸くなって体育館裏にしゃがむ姿は、たむろする不良以外の何者にも見えない。
議題は、もちろん、彼らの中央に置かれた例の紙袋である。

「・・・その黒曜生が、先日の事件とかかわっていることは確かなのですか?」
「男の隙のない態度とあの発言から考えれば。しかし、“ほぼ確実”であって、“確実”ではない」
「確かに、発言に関しては“噂で聞いた”ということも考えられるわけですね」
「しかし、確率が高いことに変わりはありませんよ」
「・・・・その上で、コレをどうするか、ですね」

学ラン・リーゼントたちは一斉に紙袋を見下ろした。
その顔は苦悩に満ちている。
一斉に顔を挙げ、身を寄せ合い、ひそひそ声で話し出す。

「どうするよ・・・コレ・・・」
「どうするっつってもなぁ・・・」
「委員長にだまって捨てちまうのも・・・」
「そんなことして、後で委員長にそのことが知れたらどーすんだよ!!」
「俺たちの明日はねぇな・・・」

思わず、ダチ同士の口調になりつつ、再び一斉に紙袋を見下ろす。
その顔は悲壮以外の何物でもなかった。

「・・・しかたねぇ・・・とりあえず・・・」












「・・・失礼します」
「いいよ。入って」

応接室の扉をノックすることに、これほど勇気がいったのはいつ振りだろうか。
草壁は手にした紙袋を見つめた。
明らかに、コレは敵からの宣戦布告か何かの印だろうと会議出席者全員が思っていた。

毒が入っているのかもしれないが、結局、雲雀の判断を仰ぐことにしたのだった。

恐怖ゆえに。

ドアをゆっくりとあける。
「委員長」
「何?」
雲雀は顔もあげずに、資料と向き合いながら返事をする。
草壁は意を決して紙袋を、雲雀が仕事をしている机の恥に乗せた。

「?・・・何、コレ」
「今朝がた、黒曜の制服を着た男が雲雀に渡してくれ、と」
「・・・・」

じっと紙袋を見つめていたが、

「で、何なの。コレ」
「・・・弁当、だそうです」
雲雀は、ふーん――と呟いてから、紙袋をひき寄せて中を見る。
「何か、言ってた?あのこ」
「は?・・・あのこ・・とは・・・心当たりがあるんですか?」
「何か言ってたのかって聞いてるんだけど」
雲雀の周りの温度が下がった気がして、草壁は恐怖に息をのんだ。
そして、質問に答えようとしてから、別の原因に恐怖して再び息をのんだ。

「あの・・・はい。伝言が・・・あります」
「なに。」

草壁はかなり逡巡してから、

「“愛がたくさん詰まっているので、味わって食べてください”」
「は?」

“愛がたくさん詰まっているので、味わって食べてください”だそうです――ともう一度くり返した。

雲雀は、少し呆気にとられたように紙袋の中身を見つめていたが、

「わかった。下がっていいよ」

そう言ってかすかに微笑んで、今度は草壁の方を呆気にとらせたのであった。













 
昼休み。


雲雀は屋上に寝転んで空を見上げたまま、鼻歌をうたう。
もちろん曲名は「並盛中学校校歌」。
彼の横には紙袋と、空っぽの弁当箱。


雲雀は風紀委員が見たらびっくりするような穏やかな表情で、


「いつになったら、本気にしてくれるかな」


楽しそうにつぶやいた。















うわーーーーー!!雲雀さん本気だったよ!!!
草壁さんが応接室を出て行った後、再び会議が開かれたに違いない。
雲雀・・・余裕ぶっこいてる場合じゃないぞい。
骸サマは手ごわいぞ。

――そして、あくまでも、骸サマに雲雀様の弁当を作って来て欲しい薫衣。


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