「とても退屈なんですよ。ヒバリ君」
「・・・この状況下で余裕だね。そんなに咬み殺して欲しいわけ」
死屍累々――のその向こうに、美麗と言ってもいいほどの戦いが繰り広げられていた。
お互い一歩も引かず、華麗なステップで右から左からと次々に攻撃を仕掛け合う。
まるで2人で華麗なダンスでもしているように見えるが、もちろんそんな優雅なものであるはずはなく・・・
「クハッ。それはまた・・・出来たら、のお話でしょう?」
「その“お話”って止めてくれる?軽くムカつくんだけど」
踊り手は並盛中と黒曜中、それぞれの帝王。
或は支配者。
或は――恐怖。
雲雀恭弥と六道骸。
2人が腕を振るうたびに鳴り響く激しい金属音と飛び散る火花。
2人が戦い始めるきっかけは、約2時間前にさかのぼる。
「お、会長!!」
「あ、鹿島くん。その呼び方やめてって言ってるのに・・・」
六道骸――もとい、樺根は走り寄ってきた生徒に拗ねたような顔をしてみせる。
周りにいた女子から歓喜の悲鳴が上がる。
鹿島はそんな女子たちを一瞬睨んでから、
「これはこれは、失礼しました。――会長代理?」
「クフフ。なんですか?」
可愛らしく小首をかしげて見せる。
再びの歓声。
「おまえなぁ・・・・それ天然でやってるから手に負えないんだよなぁ・・」
「?何のことでしょう」
無論、確信犯である。決して天然などではない。
鹿島は苦笑いした後、一通の封筒を掲げた。
「コレ。渡してくれって、翡翠中の生徒が」
「?手紙・・・ですか」
何の変哲もない茶封筒を受け取ると、樺根は軽く鹿島に礼を言って生徒会室へと戻った。
「なんれすか?ソレ」
「さぁ、何でしょうね」
「・・・」
生徒会室にすでにもぐりこんでいた犬と千種が骸を出迎える。
きっちりと閉じていた詰め襟を緩めながら、骸はどっかりとソファに座った。
「犬」
「うい」
「手、貸してもらっていいですか?」
「は?お手つらいれすか?」
「ちがいます。本当に、そのまま、手を、片手でいいんで貸して下さい」
「?はい、どーぞ」
骸は、差し出された犬の手――正確には人差し指をつかむと、長いその爪を封筒にあてた。
ピリピリッ
「へ?」
「お疲れ様です。犬」
骸はにっこり笑って開封された手紙をごそごそとあさった。
「なぁ、俺、今」
「いいね。犬は、そんなことでも骸様のお役にたてて」
「いやいやいや!なにいってんら!!これじゃ俺の爪ただのペーパーナイフらびょん!!!」
2人がギャーギャー騒いでいるのを気にも留めず、さらっと文章に目を通していたが、
「クフフ」
「・・・骸様?」
「どーしたんれすか?」
「少し――」
骸は言いながら立ちあがり、
「少し、遊んできます」
襟をきっちりとかって、生徒会室を出た。
同刻――
「委員長」
「何?」
「今日の並盛町内、およびその周辺の状況をお伝えします」
「ん。よろしく」
並盛中では、漆黒の学ランを肩から掛けた風紀委員長、雲雀恭弥が応接室で書類を片付けていた。
応接室に入ってきた草壁は、一通り近況報告を済ませると、そう言えば――と呟いた。
「何」
書類から顔をあげ、小首を傾げる。
こんなしぐさは可愛らしい中学生そのものだが、そんなことを本人に言おうものなら即座に咬み殺されるに違いない。
草壁は苦笑いしそうになるのをこらえながら、
「最近、翡翠中の動きが妙です」
「翡翠中・・・って、たしか」
「はい。なかなかのワルぞろいの学校で、近頃は大人しかったんですが」
「5年ぐらい前に、この学校の風紀委員長がやられたんだっけ」
「はい。当時の委員長は、なかなかの腕――もちろん、風紀に関してですが――で、並盛中は周辺随一の学校だったそうです」
雲雀はそっと目を閉じる。
自分の知らなかった頃の並盛中を夢想する。
「話によると、黒曜中をいろいろと嗅ぎまわっている様子で」
「・・・・黒曜中を、ね」
「黒曜中は現在、不良どもが大人しくなりましたし」
草壁はちらりと雲雀の表情をうかがったが、感情の動きは一切読み取れなかった。
「現生徒会長がなかなかの腕前らしく、だいぶ風紀の乱れがおさまってきているようで」
「ふうん。そういう学校を潰すのが翡翠の趣味なわけ・・・悪趣味」
雲雀はぼんやりと黒曜中の方角を眺めて、
「兎に角、いい機会だし、この学校の風紀委員会の汚名は近々返上させてもらうことにしよう」
「そのように」
「何か分かり次第、すぐに僕に伝えて」
「はい。わかりました」
その時――
ヴヴン――
「・・・ここに来る時はマナーモードじゃなくて、ちゃんと電源切れって言ったよね」
「も、もうしわけございませ・・・・」
目を白黒させる草壁に、
「いい。でなよ」
「はっ」
草壁は慌てて携帯を取り出して通話ボタンを押す。
「どうした・・・それで?」
「・・・」
再び書類に目を落とすその前に――
「何!!?翡翠中のより抜き50人が黒曜中生徒会長連れて翡翠中に?!」
委員長――と草壁は携帯もそのままに雲雀の方を向き直るが、
「い、委員長!?」
すでに雲雀の姿はそこになかったのであった。
30分後
「ほぉ、一人で来たか。感心するなぁ。生徒会長殿」
「え、あの・・・手紙に一人で来いって書いてあって・・・あ、それと、生徒会長“代理”です」
おどおどしつつも何だかよく分からないと言った風に突っ立ている少年。
樺根である。
周りには、翡翠中の制服を身にまとったガタイのいい男たちがぐるりと取り囲むように立っている。
場所は翡翠中の体育館裏。
「はははっ」
その中でも、明らかにリーダー格と思われる男が腹を抱えて笑いながら樺根を指さして、
「コイツァ、本物のアホだ。フツーこんなところに一人でこいなんて言われたら、何の事だかわかるっつーの」
「はい・・・?」
困ったような表情の樺根の顔をまじまじと見て、
「なかなか綺麗な顔してんじゃねぇか」
「?」
おっとぉ――と周りがどっと囃し立てる。
「珍しく伊鳥サンのタイプってわけっすか!」
「予定変更で縛りあげて体育館倉庫にでも運びますか?」
「ま、そーだな。見てぇ奴は後で来い」
「やりぃ!!後でちょびっと分けてくださいよ!」
俄然やる気になる男どもを見渡して、樺根は
「それで、お話というのは、何でしょう」
不安げに小首を傾げた。
不安げだが、実に、可愛らしく。
「話なんかねぇよ!!!」
男たちが、笑みを顔に張り付けて一斉に飛びかかった。
その、少し前
雲雀は翡翠中へと走っていた。
翡翠中の奴らを咬み殺す絶好の機会だった。
並盛中風紀委員の名を汚すものは、何人たりとも許すつもりはない。
翡翠中の校門をくぐって、どこから探すか――と思っていると、
『コッチコッチ』
「君・・・」
ヒバードが雲雀の頭上を二、三回旋回したのち、体育館の方角へと飛んでいく。
「成程。・・・・そっち、だね」
雲雀は口元に壮絶な笑みを浮かべ、再び走り出した。
雲雀が体育館裏についた時、既に何人もの男が集まっていた。
男たちから見えない位置の壁に寄り掛かって待つ。
雲雀というと、群れを見つければすぐさま咬み殺すイメージが持たれているが、案外そうでもない。
ただし、群れがさらに集まると解っている時に関してのみだが。
わらわらと集まってくる男どもを見て、そろそろ我慢の限界という時―――
「あ、あの・・・手紙を見て、来たんですけど」
「ほぉ、一人で来たか。感心するなぁ。生徒会長殿」
「え、あの・・・手紙に一人で来いって書いてあって・・・あ、それと、生徒会長“代理”です」
「はははっ」
黒曜中の生徒会長――本人曰く代理――の声を耳にしたとたん、雲雀の眉間に皺が寄る。
「コイツァ、本物のアホだ。フツーこんなところに一人でこいなんて言われたら、何の事だかわかるっつーの」
「はい・・・?」
「なかなか綺麗な顔してんじゃねぇか」
「?」
おっとぉ――と周りがどっと囃し立てる。
雲雀はそっと壁から背を離し、群れに近づいていく。
もちろん、気配は完全に消されていて、翡翠生は誰一人として気づいていない。
「珍しく伊鳥サンのタイプってわけっすか!」
「予定変更で縛りあげて体育館倉庫にでも運びますか?」
「ま、そーだな。見てぇ奴は後で来い」
「やりぃ!!後でちょびっと分けてくださいよ!」
雲雀の位置からでは、生徒会長“代理”の姿が確認できない。
だが―――
「それで、お話というのは、何でしょう」
絶対相手を故意に誘っている――そう確信できる声色だった。
「話なんかねぇよ!!!」
男たちが飛びかかった直後、
「僕は話がある」
男たちがいっせいに振り返る。
そして、振り返ると同時に3人がKOされた。
トンファーのたったひと振りで。
「な、なんだてめぇ!!?」
「おや・・・」
動揺しまくる翡翠生たちには目もくれず、雲雀は其の中心に優雅に立つ少年を見やった。
「君、何してるの」
「クフフ。僕はこの方々にお呼ばれしたんです。わざわざちゃんと果たし状まで作っていただいて」
少年の言葉に伊鳥と呼ばれた男が勢い良く振り返る。
「貴様・・・俺らの目的を知っていて・・・」
少年――生徒会長代理はうっすらと笑って、
「まったくもって貴方は正解です。こんなトコにのこのこ来るのがタダものじゃないと解らないなんて」
本物のアホ、ですね―――
怒りにふるえる伊鳥の顔を覗き込んで言った。
伊鳥が力任せに拳を振るう。
少年は簡単によけて、それから雲雀に微笑した。
「少し、面白そうでしょう?」
「どこが」
無表情で返しながらも雲雀はトンファーを構え直す。
「六道骸。君ってホント、性格悪い」
「クフフ。自覚はありますよ。雲雀恭弥」
翡翠生の間にどよめきがわきあがる。
「並盛中風紀委員長・・・」
「まて、雲雀恭弥はともかく、何で六道骸が此処にいる!!俺たちが呼んだのは・・・」
黒曜中生徒会長代理、樺根――そう少年、骸は呟いた。
「貴方がたは間違っていません。僕が樺根です。ですが、それ以前に僕は六道骸――なのですよ」
にこにこと笑う姿は本当にただの中学生だった。
雲雀は眉をひそめて、
「君、何してるの。黒曜中で」
「秘密です」
ふーん――と雲雀は気のない受け方をしてから、
「それよりも、そろそろ始めていい?」
返事も聞かず飛びだした。
「クハハ!僕の獲物だったんですがねぇ」
骸もすかさず地を蹴る。
悲鳴と打撃音が後に続いた。
「とても退屈なんですよ。ヒバリ君」
「・・・この状況下で余裕だね。そんなに咬み殺して欲しいわけ」
「クハッ。それはまた・・・出来たら、のお話でしょう?」
「その“お話”って止めてくれる?軽くムカつくんだけど」
既に1時間半近く2人でやりあっている。
翡翠生をさっさと片付けてしまったため、2人とも体力はありあまっていたが、それにしても――
「・・・そろそろ疲れてきましたね。いい加減」
「年なんじゃないの?」
「!!貴方とさして違わないでしょう!!!」
ギャーギャー言いながら戦っているために、余計に体力を使う。
骸は、はぁ――と盛大なため息をひとつついて、
「ほんっとうに、退屈ですねぇ」
「だから、君、それ、喧嘩売ってるでしょ」
違いますよ――と言いながら蹴りを繰り出す。
何が違うの――と言いながらトンファーで受ける。
「僕の場合、“暇”なのではなくて、“退屈”なんですよ」
骸は雲雀の攻撃をさばきながら淡々と語る。
「僕、こう見えて結構忙しいんですよ?」
「・・・」
「あ、疑ってるでしょう。生徒会の仕事もちゃんとやってるし、学校の宿題も――僕は優等生ですからね――それに帰ったら夕食の心配をしなくてはならないし・・・」
「・・・君、イメージが違う」
雲雀は不快感とは別の意味で眉を寄せながら、それでも攻撃の手は緩めない。
「でも、何やっててもつまらないんですよね。ここのところ」
最初は学生生活だけでも新鮮だったのに――とぼんやりと骸はため息混じりに言った。
「なにか、日常生活が一気に面白くなるようなこと、無いですかね」
雲雀はふと、動きを止めて、
「?・・・どうしました?」
「じゃあ」
「へ?」
分からないと言った風に眉を寄せる骸の顔を真正面から見詰めて、
「付き合ってみる?」
「は?」
あまりにもさらっと言われて反応できず、雲雀の言葉を反芻する。
付き合って、みる――――?
「・・・あの、一応お聞きしますが、」
「何」
「誰が、誰と?」
「君が、僕と」
「・・・・はぁぁああぁああ!!?」
思わず絶叫してから、くらくらと後ずさる。
「・・・僕男ですよ」
「知ってる」
「君、男ですよね」
「女に見える?」
骸はしばらく考えたのち、
「“じゃあ”――っていうのはどこにかかってたんですか。今の」
「日常生活楽しくしたいんでしょ?」
「・・・」
「恋愛すると景色も変わるって云うじゃない」
「貴方の口から色恋の知識が出ると驚きます」
骸は頭を抱えて、
「雲雀恭弥――貴方、本物の天然でしょう」
「・・・答えは?」
「え?」
顔をあげ、小首を傾げる骸。
「さっきの、答え」
「は!?」
本気だったのか――と宙を仰いだ。
「ねえ」
「・・・・そうですねぇ・・・」
なんて言ってやろうかと思う一方で、別のものが湧き上がってくるのが分かる。
興味――
「いいですよ。付き合ってみましょう」
「ん。じゃあ、そう云うことで」
色気も何もあったものではなかった。
だが、
(たまには他人の遊びに乗ってみるのも、悪くないですね)
確かに先ほどより幾分楽しげな足取りで家路についた骸だった。
そんなわけで、雲雀恭弥と六道骸は付き合うことになったのである。
笑える。
何がとは敢えて言わない方向性で・・・・
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