「今日はどうすんだ?ツナ」
専属の家庭教師からのいきなりの質問に、受験勉強と格闘していた綱吉は首をかしげた。
「今日・・・って、なんかあったけ?」
「夏祭りだぞ?」
今日は年に一度の夏祭り。
去年は獄寺、山本、京子とハルというメンバーで花火を見たのだが・・・
「誘ったのか?って、忘れてんだから誘うわけねぇか」
「だ、誰を・・・」
綱吉は大いにあわてて参考書で顔を隠す。
しかし、リボーンは全く気にせず、
「アイツだ。自分でわかってんだろ」
「う・・・・」
綱吉はゆるゆると顔をあげて、
「だって、忙しいよ。きっと」
「集金してるだろうしな」
アイツこと、雲雀恭弥。
並盛中を卒業して、今現在は並盛第一高校の生徒である。
高校でも風紀委員――しかも1年生にして委員長をしているらしく、卒業しても風紀委員のほとんどがいまだに雲雀に従えている。
目下いろんな意味でアタック中の綱吉の想い人である。
「オメーがヒバリをモノにすればこの先のボンゴレにとっても話がはぇーんだ。さっさと告白しちまえ」
「も、モノにするとかゆーなよ!!だ、第一、ヒバリさんに告白なんかしたら咬み殺されちゃうよ!!」
顔を真っ赤にして、叫ぶ。
「いいよ。獄寺君たちと行くし。」
「あれは、オレが断っといてやった」
「勝手に断んなよ!!そして恩着せがましく言うな!!!」
立ち上がってこぶしを振り上げた瞬間、
『緑たなびく 並盛の〜〜〜♪』
「!!?」
「ほら。およびだ」
雲雀からかかってきたときだけ流れる並盛中校歌。
携帯番号を交換するまでこぎつけたのは雲雀の卒業間近のことである。
卒業すれば、いくら守護者であっても疎遠になると思いこんで落ち込んでいたのだが、卒業してからも定期的にメールや着信が入って綱吉を喜ばせた。
「あ、あ、も、もしもし?」
『君はいつも慌ててるね』
電話の向こうから聞こえる落ち着いた冷たい声。
あの頃よりも少し、低い。
「あの・・なんですか?急に」
『僕はいつも急だけどね――今日は、君、空いてるの』
「え・・空いてます・・ケド」
じゃ手伝って――と電話の向こうで雲雀が言った。
『今日は人手がいくらあっても足りないからね』
「手伝うって・・・集金ですか?あの、ショバ代」
『それ以外に何があるの。安心しなよ。壊す方は別のにやらせる。君、やりたくないでしょ?』
もちろんです――とおもいつつ、綱吉は少し嬉しくなってきた。
形はどおあれ、雲雀との夏祭りである。
「あ、制服の方がいいですよね」
『・・・・』
沈黙。
「?・・ヒバリさん?」
『君は、浴衣・・・持ってるの』
「は?」
思いもかけない質問に、間抜けな声が出た。
「・・・持ってます、けど」
『じゃあ、着てきて』
「・・・浴衣を、ですか?」
『うん。それじゃ、すぐに迎えに行くから』
「え・・・」
綱吉が何か言う前に電話が切れた。
「なんで浴衣なんだろ・・・」
「やるときはやるな。さすが、オレが見込んだだけのことはある」
「・・・なんの話?」
綱吉の訝しげな表情をまるきり無視して、
「兎に角急いで着替えた方がいいぞ?アイツはすぐ来るって言えば、ホントにすぐ来るからな」
「げ、そう言えばそうだった」
慌てて部屋を飛び出し、母さん!浴衣どこにしまったっけ――と大急ぎで階段を下りて行った。
そんな綱吉を見送ると、
「さて、オレはオレで支度すっか」
と何やら楽しげにリボーンは笑った。
「ツっくん、いきなり浴衣なんて、どうしたのかしら」
浴衣を出してやり、着つけてやってから首を傾げる奈々。
要領の悪い綱吉は、浴衣を着てしまってから支度をしに再び2階に戻った。
降りてきたら治してあげないと駄目ね――と思っていると、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
パタパタと玄関まで走り、ドアを開けた。
「・・・・まぁ」
「おはようございます。僕は綱吉君の――友人・・・の並盛第一高校の風紀委員長の雲雀恭弥といいます。綱吉君はいますか。」
まぁ・・――ともう一度繰り返し、
「ちょっと待っててくださいね。呼んできますから。――とにかく、上がって・・・」
笑顔で答えて雲雀をキッチンまで誘導し、麦茶を出すと、小走りに2階へと上がって行った。
「ツっくん!!」
「うわぁ!!な、何!!?」
「どうしたママン」
いきなり飛び込んできた母親に、驚愕の顔を向けたまま思わず固まる綱吉。
どうやら、もう支度を終えて下へ降りようと思っていたところらしく、巾着を下げている。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!!」
「な、なんだよ。落ち着いて」
奈々は興奮を隠さずに言う
「母さん知らなかったわ!」
「?」
「ツっくんってば、あんなかっこいい先輩とお友達だったのね!!!」
「え・・・」
「ヒバリの奴、もうきたみてーだな」
「うそ!!?」
顔を赤らめつつ、わたわた階段を下りる後ろで
「並盛第一高校っていったら、ここらじゃ名門じゃない」
「・・・知ってる」
綱吉の最近の勉強への打ち込みようの原因である。今の成績では、到底、一緒の高校には行けない。
「それにしても、綺麗な鎖骨してたわぁ・・」
「ちょ、どこ見てんだよ母さん!!!」
台所へと飛び込んでから、綱吉は急停止した。
「おはよう。沢田綱吉」
薄く笑って振り返る姿は、信じられないことに黒い浴衣を纏っていた。
「お、お、おはよう・・・ございます・・・」
黒い浴衣の裾に薄い灰色で杜若が描かれている。そこから、細い白い手足と首筋が出ている姿は、俺死んだカモ――と、綱吉が一瞬思ってしまうほど、見事なものであった。
確かに、鎖骨に目が行く。
「ふうん。なかなか似合ってるじゃない。浴衣」
「え?あ、どうも・・・」
なかなか頭が反応できないでいる。
「ひ、ヒバリさんて、浴衣、着るんですね」
「あ、これ?うん。たまにはいいかと思って」
そう言って雲雀は軽く両腕をあげて見せた。
おかしいくらい、様になっている。
(そういえば、十年後のヒバリさんは普段着着流しだったもんな・・・当り前と言えば当り前・・・なのかな)
十年後で見なれたはずだが、いかんせん、すっかり大人になった十年後の雲雀と、まだ大人になりきれていない今の雲雀は誰が見たって別人である。
「なんか、不思議な感じがする・・・いつも、学ランか高校のブレザーしか見たことなかったから・・・」
「そう?・・・それよりも、これ、問題があってね」
「問題?」
小首を傾げる綱吉に、
「風紀の腕章が、付けられない」
「あ・・・」
困ったね――と無表情、かつ、何かを訴えかける眼差しで見つめてくる。
(そんなこと言われましても・・・)
綱吉は何と反応したらよいかワタワタしていたが、ふいに、
「じゃあ、風紀の仕事ほかの奴に任しちまえばいーじゃねーか」
「げ!!リボーン!!?」
「赤ん坊。久しぶり。」
「ちゃおっす」
現れたリボーンは浴衣にうちわ、頭の後ろに電気を放つ黄色いキャラクターのお面をつけている。
うわー余計なの出てきたよ――と頭を抱える綱吉に目もくれず、リボーンは話を続ける。
「この再集金は中学生に任せりゃいいじゃねーか。マフィアにゃ休養も必要だぞ?」
「ちょ、リボーン・・・そうは言うけど、」
「いいかもしれないね。たまには。」
「へ?」
雲雀は何か考えている風だったが、
「うん。そうするよ。集金は、並中の風紀委員に任せる。」
「って、ヒバリさん、中学校にも影響及ぼしてんの!!?」
叫ぶ綱吉をよそに、どこかに携帯で電話をかけ、何やら指示を飛ばしていたが、
「手を抜いたら、咬み殺すから」
の一言を最後に電話を切った。
「すてきねぇ・・・」
「母さん!?ああいうのOKなの!!?」
雲雀は携帯をしまうと、綱吉の方に向き直って、それから軽くまゆを寄せた。
「君、着崩れてない?それ。」
「え?あ!」
浴衣の襟と裾がずれている。
雲雀は、溜息をつくと、
「ちょっと、じっとしててくれる」
綺麗に整えてやる。
(し、心臓のおと、聞こえてないよ・・ね)
綱吉の羞恥と興奮に気づかず、さっさと終わらせると、綱吉の手を取った。
「じゃ、行こうか」
「は、はい」
玄関まで行き、雲雀は振り向いて奈々に深々とお辞儀すると、お邪魔しました――と言って外へ出る。
「い、行ってきます!!」
綱吉の声とともに、ドアが閉まった。
「すてきだわぁ・・・しっかりしてるし・・ねぇ、リボーンちゃん・・・て、あら?」
奈々が振り返った時、その家庭教師はすでにいないのだった。
続いちゃったよ・・・
そして、見るに堪えない去年の文章。
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