「緑・・たなびく 並盛の・・・」

屋上のさらに上。そのまた上の貯水タンクの上に座ってぼんやりと空を眺めながら、雲雀は校歌を口ずさんでいた。
ただ、その表情は限りなく暗い。

もうすぐ冬が終わる。
3年の雲雀は卒業なのであった。

もちろん、この学校に並々ならぬ愛着を持っている雲雀にとって、この学校から立ち去ること自体に抵抗があるのだが、いつの頃からかそれ以上の理由ができてしまった。


「沢田・・・綱吉」


自分が守護することになる、将来のボンゴレファミリーの十代目のボス。

雲雀が初めて思いを寄せた相手に当たる。

「初恋が男なんてどうかしてるね」
呟く声も、日頃の強さがない。


沢田綱吉という男は、馬鹿で間抜けでいいところなど一つもないように思えるのに、ふいに意地を見せたり、絶望的状況下で信念をつきとおしたり、誰も今まで自分に対してしたことのないような笑顔を雲雀に見せたりする。
雲雀は弱い者は嫌いだが、強い者は好きだった。
だが、それはいつも外面ばかりのことで、物理的に強いか弱いかにばかり偏っていた。
それを覆したのが沢田綱吉で、それ故にあっという間に引きずり込まれてしまった。

自分だけがこんなに躍起になっているのかと思うと、悔しくもあるのだが。

「おひる・・・食べてないな・・・」

あと15分で昼休みが終わってしまう。
だが、何も食べる気になれなかった。
こんなところは死んでも風紀委員に見せられない――と雲雀は眉を寄せた。
仕方なく身を起したとき、下でドアの開く音がした。
群れだったら咬み殺す――と思う間もなく、

「ゴメン山本。忙しいのに・・・」
「いいって。ツナの頼みじゃ断れねーし」

沢田綱吉・・・と山本武――動揺を押し隠して、息をひそめる。
今、外に出る勇気がなかった。
下の二人は、かまわず会話を続ける。

「ホントごめんね。急に」
「いいって。いいって。あの事なんだろ?」
「うん。そうなんだけど・・・」

雲雀の眉がぴくりと動く。
親密そうな雰囲気。

「好きな人ができるっていうのは、なかなか大変だろーしな」

山本の台詞に、ビクリと方が跳ねあがる。
好きな・・・ひと?―――

考えてみれば、当り前の事だ。
沢田綱吉は現在中学二年生。
好きな女子がいたところで、驚くような年齢ではない。

「しかし、どおすんだ?もう
3月だろ?」
「うん・・・・卒業前にせめて、携帯番号だけでも、って思ったんだけど・・・・」

雲雀の顔がますます険しくなる。

携帯番号?卒業・・・ということは3年の女子?―――

「もう、卒業だもんな。はぇーもんだなぁ。はは。」
「わ、笑い事じゃないよ!!もう、一生会えないかも知んないんだよ!?」

一生会えないかも・・・どういう関係なのかイマイチ分からない。
そんなに親しくないということなのだろうか。

盗み聞きなど褒められたことではないと思ったが、思わず身を乗り出してしまう。

「わりぃ。わりぃ・・・で?なんかアタックしたのか?」
「・・・してない。っていうか、最近、会うのも・・・なんか怖くってさ」
「分かる。分かる。」
「でも、でも、もう後ぜんぜん時間ないじゃん。どーしよ・・・」
「なんとか接触できねーの?」
「無理だよ。たぶん、あし、すくむ。」

なんで好きになっちゃったのかな――と呟く声は、雲雀がはじめて聞くものだった。

こんな声を出すのか、沢田綱吉は――――

雲雀は苦痛さえ感じて顔をゆがめた。
これが、自分とは関係のないところで起こっているなんて―――

これ以上聞くことに耐えきれなくなって、貯水タンクから一気にドアの前まで飛びおりた。
雲雀ほどの運動神経の良さがなければ骨折間違いなしである。
案の定、一つ下の後輩たちは度肝を抜かれて立ち尽くした。

「ひ、ひ、ひ、ヒバリさん!!!!?」
「ヒバリ!?」
「やぁ、君たち、屋上にきてたの」

知らぬ振りを通したが、綱吉はパニック状態で顔を真っ赤に染め上げている。
一方の山本は目をうろうろとさせた挙句、それじゃオレここら辺で――と頭をかきながら逃げて行った。
このままでは、二人っきりになる。
そう思って、雲雀は軽く片手をあげて、

「それじゃあね。」
「あ・・・」

身をひるがえした雲雀の上着を、綱吉がつかんだ。

「・・・・?なに?」
「あ、・・・あのっ・・・」

パニックで今にも泣きそうな綱吉を眺めながら、泣きたいのはこっちだよ――と心の中で呟く。

「け・・・」
「け?」

「携帯、番号を・・・教えて・・・くれませんか?」

「え?」

思いもよらない要望に、一瞬思考が停止する。

「なんで・・・」
「ひ、ヒバリさん・・・卒業で・・・群れるの嫌いだろうし、もしかしたら、疎遠になっちゃうと思って・・・」
「・・・・・」
「いやだったら、いいんです。」

卒業まじかの三年生。
一生会えない。

現在3年生。

群れるのが嫌いだから、守護者を断るかもしれない。

停止した思考が一気にフル回転しだし、一つの解答をはじき出す。


じゃあ・・・さっきの話は・・・―――


「わお・・・」
「へ?」
「・・・携帯今、持ってる?」
「あ、はい!!」

わたわたとポケットを探る姿を見ながら、思わずほほを緩めた。


「ねぇ。沢田綱吉。」
「はい?」


綱吉がなんとか携帯を取り出す。


「教えてあげてもいいけど・・・」
「?」
「僕――断らないから」


何を、とは言わなかったが、十分相手には通じたようで、


「はい!!」


にっこりと綱吉が笑った。




ここから先の展開は、自分にかかっているのだと、雲雀は自覚する。




もうすぐ、春である。










困ったもんだな。
有りがちネタですが、描いてる本人は相当楽しかった。
えっとですね・・・間の恋愛自覚編は広告の裏みたいな紙に絵で描いたんですね。コレが。
で、失くしました。そのうち、うpするかも知れません・・・・;
ゴメンナサイ。

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