(おかしい。)

(なにかおかしい。)

一昨日から夏季休業である。
夏季休業中の生徒の行いについては、夏季休業前日の狩によって釘がさせたし、夏祭りの集金や、夏に浮かれて学校で花火などをする群――もちろん並盛中学校の生徒であるはずがない――の処理など、なかなか彼にとっては面白おかしく忙しい休業になるはずであった。

だが―――







「委員長。」

「・・・なに」

応接室のソファーに座ったまま、雲雀はうっそりと目をあげた。
それだけで、周りの部員が少し動揺する。

一人の時は、比較的この部屋で寝ていたり、屋上であくびをかみ殺していたりする図は目撃されているが、この委員長が、風紀委員会の仕事中にぼんやりすることなど・・・・
副委員長の草壁は、逡巡したのち、口を開いた。

「お疲れですか。」
「・・・別に。」
「差し出がましいとは思いますが、少し、お休みになられては?」
「・・・・別に――って、さっきも言わなかった?」

クーラーが十二分にきいた部屋の空気が、さらに十数度下がる。
しかし――

「・・・うん。そうするよ。悪いけど、この続きは明日。他のはいつも通りの仕事に就かせておいて。」
「はい。差し出た発言、申し訳ありませんでした。」

深々と頭を下げる姿を一瞥して、雲雀は立ち上がった。

「失礼ですが、どちらへ?」
「・・・ちょっと外に出てくる。すぐに帰るよ。」

応接室から立ち去った。







蒸し暑い廊下を歩きながら考える。

休みに入ったのに面白くない。
一昨日から睡眠時間が極端に短い。
苛々して仕方がない。

「・・・・わからないな。」

なにがこんなに自分を苛々させるのか。
2、30人くらい咬み殺しにいこうか――と思って、下駄箱から靴を取り出しつつ、ふと扉の外を見やると、

「・・・・あれは・・・」

自毛でなかったらまっさきに咬み殺しに行きたいくらいの明るい茶髪が見えた。


「沢田綱吉。」


靴を履いて外に出た。









校門の前の綱吉は、何やら学校の方をちらちら見ていたが、すぐに学校に背を向け、なにやらひとりであーだかうーだか言っている。
背後に雲雀が立ったことにまったく気づいていない。
どう声をかけてやろうと思っているうちに、

「―――――ヒバリさん・・・」
「何?」

出来すぎたタイミングでのひとりごとに思わず返事をしてしまった。
「うおぉおぅおおお!!?!?」
叫びつつ振り返った綱吉は、見慣れない私服姿だった。
「変わってるね。君は。いつも雄叫びをあげてる。」
白地にロゴが入ったTシャツと黒い半丈のズボン。この世の終りが来たかのような顔をしている。
「ひひひ、ひ、ひ、・・・・ひばっ・・・」
「何笑ってるの?」

こういう反応は真っ先にトンファーの餌食になりそうなやつなのに、何故だか面白く見える。
(なんか・・・すごく久しぶりな気がするな・・・)
知り合ってから、何故だか―綱吉のところの赤ん坊の勧誘のせいもあって―よく遭遇するし、何しろ、目立つ。
姿がというより、びくびくした反応と行動とダメ言動の話題が。
そうでなくとも、綱吉は大体遅刻ギリギリに校門をくぐるので、遅刻者チェックに来る雲雀は彼の姿をほぼ毎日みかけている。
最近、毎朝綱吉がいつ来るかと予想をたてるのが楽しみにすらなっている。
もちろん、本当に遅刻などした日には、校内に入れるどころかグラウンドの土を踏ませる気もない。

「今日は・・どうしたんですか?制服?」
「あぁ、コレ?」
そう言って、襟元を引っ張る。
綱吉が何故だかおろおろしだす。
(何なのかな。このコは・・・・)
「好きなんだよ。制服が。」
「あ、そーなんですか。」
心持顔がほころぶのを、雲雀は不思議そうに眺める。

「―――アレ?」
「・・・・何?」
「腕章が・・・ビニールだ・・・・」
「・・・・」

雲雀の腕にあるのは、いつもの刺繍された腕章ではなく、周囲の、さほど地位のない風紀委員用のビニール製だった。

(ていうか、よく見てるね。そういうとこ。)

「クリーニングに出してるんだ。全部。」
「全部!?」


実は、クリーニングではなく、ゴミに出したのだが。
雲雀の一学期分の腕章は5個。
うち、生き残ったのは1つだけ。それがクリーニング行きである。
残りは、どうしても落ちない汚れが付いてしまった。

たとえば、大量の返り血とか―――。

「夏休みだからね。」
「へぇ・・・・ヒバリさんが、ビニール。」

意味もなく嘘をついている自分にテンションが下がってくる。
綱吉が楽しげに顔をあげるその目の前に、わざと不機嫌そうな顔を据えておいてみる。
案の定、おたおたし出だした綱吉の反応に雲雀は満足して、
「僕は仕事で来たんだけど・・・君は、何で学校なんか来てるの。補修者のリストには入ってなかったでしょ。」
「はぁ、まぁ・・・―――ってか、補修者のリストって風紀委員の手にもわたってるのーーーーー!!!?」
「意味なく学校を徘徊されても困るんでね。」
その答えに、またしても血の気を失っていく綱吉に、なんだか苛々して、雲雀は背を向けて学校へと引き返す。
そんなに恐い?―――とそう周囲に見せているはずの雲雀自身が思ってしまう。
「あ・・・」
焦ったような声に振り返ると、引き留めようと手を伸ばしかけた綱吉。
あんなに怖がってたくせに、本当に、よく分からないな――と思いつつ、口を開く。

「何してるの?早くついてきなよ。」
「へ?」

間抜けぶり全開で首をかしげた姿に、思わず口元がほころびそうになっている自分に気づいて雲雀は

「せっかく来たんだから、風紀委員の仕事、手伝ってってよ。」

(何言って―――)
自分でも思ってもみなかった言葉が飛び出した。
自分から群れを作ってどうする―――

「え、あ、ハイ!!」

気のせいかもしれないが心持嬉しそうな綱吉の反応に、雲雀は結局・・・・

2人じゃ“群れる”に入らないよね?)

そのまま成行きに任せることにした。



そして、雲雀にとって、なかなかに面白い夏休みが始まったのだった。











1827・・・1の、雲雀視点。なんか、ヒバリさんのキャラ掴めてなかったんだなぁ・・・・
困ってる。困ってる。



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