「さ、ナリス様。ご説明なさってください?」
「・・・・・・。」
ナリスの寝室。
リギアは、ベッドに寝間着姿のまま腰かけたナリスを見下ろして、詰問した。
二人とも十代半ばと言ったところなので、はたから見ると、詰問と言うより、弟をしかる姉といった風だ。
実際、幼くも、姉貴分を自称しているリギアの中には、多少その構図はあっただろう。
だが、肝心のその弟分はと言うと・・・・・・
「説明って、何を説明するの?リギア。」
にっこりと笑って、今日はちょっと寒いね――と言って、肩かけを羽織った。
「何を、じゃありません!」
リギアは激しく言うと、
「この大量の書物。どうなされたのです!」
ベッド脇に山と積まれた分厚い本群をびしりと指さした。
ナリスは、あぁ、それ?――と起きがけのけだるさでぼんやりと見つめ、
「美しい方から頂いたの。」
と微笑んだ。
「美しい方?」
あっけにとられるリギアをよそに、ナリスは、うっとりと肯いた。
その目は、はるか彼方を見つめている。
「ああ。リギア。リギアっ!!この世にあんなに美しい男の人がいるなんてね!!彼はきっとイリスに作られた人間・・・・違うな。イリスそのものだよ!!
だって、あんなに美しくて、白が似合う生き物が、人間のはずないもの!!!」
「ちょ、・・あの、ナリス様?落ち着いてくださいませっ。」
ナリスは、はたと視線をリギアに戻し、あぁごめん――と心持、頬を赤らめて首を傾げた。
「つい、興奮してね。つい。」
リギアは天を仰いで、
「あぁ。もう。しっかりしてください。ナリス様。その、美しい方とは?見たところ、これらの書物、異国の文字のようですが・・・」
いちばん上に積まれた本を手に取り、中に目を通す。
多くの文字や、わけのわからない数式や記号、図が並ぶ。
「不思議な文字ですわね。大きく分けて、二種類の文字が混在して・・・・。おまけに、まぁ、このページの隅の絵と言ったら・・・・・!!!
なんてリアルなの!?まるで、本当にこの植物がここにあるようだわ!!!」
「それは、絵ではなくて“ホトガラヒー”というもので、対象物をそのまま映しとる機械で作ったものなんだって。」
「そのまま映しとる!?そんな技術聞いたこと・・・・」
「向こうは、私たちの世界よりもずっといろいろな技術にあふれているんだよ。」
ナリスは、そっと一冊の本を手に取った。
「ねぇ、リギア。これに、何が書いてあると思う?私たちの体の仕組みが事細かに、それこそ、縫い針の先の千分の一程の大きさの事も取り扱われてる。」
リギアはあっけにとられて、自分の持っている本に目を落とした。
ナリスはかまわず続ける。
「こちらでは不治の病も、向こうでは薬丸一つで治る。こちらでは10日もかかる伝令も、向こうでは5秒で済む。」
ナリスはおもむろに立ち上がってバルコニーへ出た。
「あぁ、向こうはなんて素敵なところなんだろう。」
「ナリス様・・・」
「私が、知りたいことを、彼は全部知っている。全部は教えてくれないけれど・・・・」
「ナリスさ・・・・」
「彼は言ってくれたよ。いつか、ヤーンに見放された時――向こうへ来てもよいと!!」
「!!?」
「彼は拒まないと言ってくれた。僕を、拒まない、と。待っていてくれるって――」
「ナリス様!!!」
リギアはたまらず叫んだ。
ナリスは、少しうっとうしげに振り返って、
「何?」
「まさか、どこかへ・・・・行ってしまうなんてこと・・・・」
ナリスは一瞬無表情になった。
リギアが息をのむ。
「リギア・・・・」
その顔にみるみる艶やかな微笑が浮かぶ。
「ひどいね、君は。私がヤーンに見放される日が来ると思っているの?!」
「え?」
リギアはあっけにとられて立ち尽くした。
そして、顔を赤らめて叫んだ。
「まぁ!!ナリス様!またわたくしをからかったのですね!!?」
「ふふ。そう怒らないでよ。リギア。」
リギアは、しばらく怒ったような態度を前面に出していたが、一つため息をつくと、
「まったく・・・まぁ、あなたがそういう方だっていうことぐらい、私はよく知っていますから。」
手にしていた本を山に戻すと、
「さ、朝食の用意もできていますから・・・そんなところにいると、風邪をひきますよ。」
そう言って出て行った。
一人寝室に残されたナリスは、山と積まれた本の一冊を手に取った。
「ヤーンに見放されたとき・・・か」
ゆっくりと、強く、その本を抱きしめる。
「今はまだ、行けそうにない。」
(今はまだ、ね。)
烏兎さんの小説から。
初めて書いたナリちゃん。(馴れ馴れしいな。)
子供のころのナリちゃん、大好きです。
“ひるとよる――”の時にも思ったが、 薫衣、ショタの傾向アリ?(汗)
しかし、烏兎さんの“夢”の時のメフィスト先生はホントに男前です。(悦)
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