その日。
〈魔界都市〉には、雪が降っていた。
世界は。
グレーに染まっていた。
せつらは、汚れた雪の上を歩いていた。
黒いブーツに、踏み飛ばした雪の名残が飛ぶ。
その足は、せつらの家からそう遠くはない魔震以来の廃墟ビルへと向かっていった。
割れた窓ガラスの破片さえ、十数年前と変わらず散らばっている。
穴ばかりの窓から迷い込んだ雪が、僅かに積もっていた。
真新しい雪の上を選んで、せつらは奥へ奥へと進んでいく。
屋上には、堕ちてきたままの雪が積もっていた。
瓦礫も硝子も土も埃も、すっかり覆われていた。
キュッ、キュッ――と靴底が雪を踏みしめる音が響く。
2,3歩進んだところにあったコンクリートの塊へ近づいた。
巻いていたマフラーを解いて表面を撫でると、ふわりと積もった雪が散った。
そのままマフラーを敷いて、せつらは腰を下ろした。
一面、真っ白であった。
雪はふわりと軽く、絶え間なく降り続く。
肩に引っかけたビニール傘にも、サラサラと音を立てながら落ちて来る。
せつらは見つめていた。
雪は白く、白く、どこまでも白い。
躊躇うようにゆらりゆらりと舞い落ちるのも。
既に積もった中に消えて見えなくなるのも。
せつらを誘うように降り込んでは溶けていくのも。
全てが、白かった。
ふと、せつらは思い出したように、漆黒のコートのポケットを探った。
引き出された指先には、小さな紙。
名刺程の、黒い厚紙であった。
せつらは、何も書かれていない漆黒の面を上に、足元の雪の上にそれを放った。
サクと音もなく白い雪の上にそれは落ちた。
漆黒の紙片の上にも平等に白い雪が舞い落ちる。
溶けることもなく。
染まることもなく。
混ざり合うこともなく。
反発し合うこともなく。
黒いばかりの上に。
白いばかりが積もる。
せつらは、それを眺めていた。
雪は積もっていく。
じっと、せつらは眺めていた。
紙片の上に積もった上に、また新しい雪が積もっていく。
せつらは、スと手を伸ばした。
ビニール傘に乗っていた雪がサラサラと滑り落ちた。
せつらの手は紙片の上に積もる雪を掴んだ。
雪はやわ、と溶けた。
せつらの指先から、熱を奪った。
屋上は、音もなく、雪が降るばかりである。
せつらは、動くことなく、それを見つめるばかりであった。
ザクと――
音がした。
白い雪ばかり積もる屋上であった。
じっと動かないせつらの前方であった。
積もる雪に相応しく。
メフィストは、雪のように佇んでいた。
せつらは立ち上がった。
ビニール傘が落ちトクトクと後ろへ転がった。
気温が低いのか、積もった雪は固まることなく舞い上がる。
クッとせつらは一歩進み出た。
そのまま駆け出した。
僅か数メートルばかりの距離である。
駆ける後に雪が舞う。
せつらは立ち尽くすメフィストへ飛び込んでいく。
メフィストは舞い込むせつらをしっかりと抱きとめる。
どちらからともなく、抱きしめる。
溶けることはなく。
熱を奪うこともなかった。
この世界は。
白と黒に染まっている。
この時。
〈魔界都市〉には、雪が降っている。
何年も前の冬の、初雪が降った日に突発的に書いたもの・・・と思う。
せつメフィ・・・のつもりで書いていたのではなかろうか、と思うのですが。
後になってみると、メフィせつ傾向な気も・・・
あんまり考えて無かったのだろうか?
ともあれ、時期外れですが、発掘されたのでUPしてみました。
因みにタイトルは、とある歌の歌詞より。