朝から〈新宿〉の空を覆っていた雲は、宵に溶けるように消えていった。

今宵は、満月であった。

瓦礫の間から僅かに茂る薄の穂が、キンと張りつめた光を受け、サラサラと揺れている。
〈新宿〉の街は、月光と影に染まっていた。


シンと張りつめた秋夜の中を、その影は歩いていた。
濃い月光に色を失くした道を、白いケープが踊るように揺れる。
月光の降り注ぐその顔は、更に冷美な輝きを増している。
月影の、無機質な色に染まった街に、その美しさは良く映える。
コツ、コツ、と響く足音すら、輝きを放っている様であった。
白い月が作り出すプラスチックの世界に、その姿はあまりにも相応しく、そこに存在していた。

メフィストは、降りそそぐ無機質な光を全身に浴びるように、ゆっくりとした歩調で、通りを進んでいた。
月光の作り出すモノトーンな世界の中で、彼の歩みは軽やかにも見える。
闇と光を纏った夜の粒子と戯れるように、メフィストは歩いていた。

ツ、――と。
メフィストは、その優美な歩みを止めた。
瞳がキラリと瞬いたように見えた。
「お前に、よく似合う」
声が、モノトーンの中に闇より玄い黒を落とした。
同じ色のコートが月光を吸い込んだ。
「せつら」
闇の名前を、メフィストは愛おしそうに口にした。
ふわり、と白い微笑みが浮かぶ。
「珍しい。こんな時間に」
「そうでもないさ」
漆黒の影も微笑みを返す。
その冷たさに、メフィストは震えた。
「今夜は、特に」
冷徹な瞳と声に絡め捕られたように、メフィストは動けない。
「今日の月夜は、お前に合っている」
コートの裾を翻して、美影が歩き出した。

「この冷たい光」

カツ、カツ――と黒い歩みが近づいてくる。

「色なく輝く空気」

カツ、カツ――と、メフィストは動けない。

「煌めく闇」

カツ――とその声と影は、もう目の前であった。


「そして、純白」


月のような白い手が、立ち尽くしたメフィストの顎にふれた。
「今夜は、お前によく似合う」
くい、とメフィストの顔が上げられた。
「この街の、月夜は美しい」
冷たい微笑は、真っ直ぐにメフィストに向けられている。
「私の夜月も」
氷の美貌が、月の美貌に近づいていく。
「美しい――私のメフィスト」

それは、この街に相応しい口付であった。





ホント好きだな・・・月。

この2人の邂逅は、秋月や冬の夜の様な静寂が良く似合う、と思う烏兎。
秋から冬にかけての月夜は、色もなく、偽物の世界であるかの様に感じるのは、烏兎だけでしょうか。


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