「さっきさぁ」
西新宿の秋せんべい店の奥、平凡な六畳間に非凡な2つの影が鎮座していた。
「何かね?」
繊手によって差し出されたお茶を、陶器のような手が優美な動きで傾ける。
輝かしい時間が六畳間に流れていた。
「いやね、お客さんから聞いたんだけどさ」
「男かね?」
「・・・・じゃない方」
「では、結構」
「内容は男」
「伺おう」
「聞く気あんの?」
「勿論だ」
「聞きたい?」
「聞きたい」
うん、よろしい――とせつらは、エヘンとばかりに頷いた。
「で?――お話というのは?」
「こないだ、ふゆはるの奴が行ったらしいんだよね」
「新作スイーツの店、かね?」
「・・・・何だよ。もう知ってるのか」
「別情報、だがね」
――勿論、殿方だ、と自信たっぷりにメフィストは付け足した。
「寧ろ、そっちの方が僕には心配なんだけどね」
「嫉妬かね?」
「そんなキラキラした瞳で見ないでくれる?」
違うから、とせつらは愛らしい唇をプイと突き出した。
「それは残念」
「ところで」
「はて?」
「その殿方って?」
「浪蘭幻十くんだ」
「この浮気者」
「患者さまだ。定期検診にいらした際の雑談だ」
嫉妬かね?と微笑むメフィストに、せつらは、うんと答えた。
「ふゆはる君と2人でデートをしたとか」
「美味しいらしいよ」
「そのようだな」
「・・・・他には?」
「なかなか独創的なものが多いとか」
「そうなんだけど」
「甘党に人気、と話題になっているとか」
「もう一声」
「私も行ってみたいな、かね?」
「それそれ」
待ってました、とばかりに茫洋とした美青年は、白い手を揉んで見せた。
「予定は?」
「ふむ。午後の往診の後なら」
「そう来なくっちゃ」
「では、後はダミーに任せよう」
「ダミ子にもお土産買ってってあげるよ」
それにしても、と何かに指示を出すように、左手の指輪を軽く振った。
「君がスイーツとは珍しい」
「デートしたいだけ」
「私でご希望に添えれば」
従兄と幼馴染に見せつけられてばっかりじゃあね、とせつらはウインクしてみせた。
「それと、恋人のご機嫌もとっておかないと。浮気されると困るから」
「困るかね」
「困るよ」
「気を付けるとしよう」
「そーして」
じゃあ、終わる頃迎えに行くから――とせつらはのほほんといった。
「では、きちんと仕事を終わらせておく」
「準備できてなかったらお仕置きだからね」
「それは怖い」
メフィストはクスクス笑いながら、三和土へ舞い降りた。
「それでは、お暇する」
「うん。また後でね」
せつらの春爛漫な投げキッスが届くのを待って、六畳間の戸は静かに閉められた。
終われ・・・
以前にUPした「さっきさぁ、」の別バージョン(?)
出だしだけ一緒で、後は別物書こうと思って――結局、変わり無し。
中華か新作スイーツかの違い・・・
でも、せつら→→→→→←←←←←←メフィな感じを目指してみました。
そして食い込んでくる、ふゆ幻(笑)
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