「さっきさぁ」
診察室の椅子に上で、コートを着ながらせつらは呟いた。
「・・・・・やっぱいいや」
「そうかね」
カルテに何か書きこみながら、メフィストはあっさり答えた。
せつらの顔がむすっとする。
「気になんないの?」
「さて」
「ケチ」
「その言葉は違わないかね?」
「どアホ」
「そうかもしれん」
「・・・・・」
「・・・・・」
口を尖らせてじっと睨みつけるせつらになど、見向きもしないで、メフィストはカルテに自分のサインらしきものを記入した。
「さ。診察は以上だ」
「どうも」
「気をつけて帰りたまえ」
何にだ、と頭の中で舌を出すせつらに、メフィストは言葉をつづけた。
「――それと」
「あ?」
「今日は12時半からなら空いている」
「・・・・・」
この男は――と顔を顰める。
取り敢えず、平静を装って――と云ったって、おそらくバレテいるのだろうが――それが?と惚けた。
「特には」
「僕にはカンケーない」
「そうかね。だったら、昼食のお誘いをいただいているから、そちらにお応えしよう」
「・・・誰とだ」
「内緒だ。君にはカンケーない」
「・・・・バカ医者」
「バカせつら」
それを最後に、せつらは派手な音を立てながら診察のドアを閉めた。
「あーあ」
強い日差しの中を、せつらはとぼとぼ歩いていた。
時々立ち止まっては大きなため息をつく。
またしても立ち止まり、せつらは盛大に溜息をついた。
白い手でコートのポケットを漁り、折りたたまれた紙切れを出した。
メフィスト病院へ行く前に、配られていた中華料理店のチラシであった。
今日が開店日らしく、開店セールの広告だった。
先程の「さっきさぁ」の話のネタである。
誘ってみようかとおもって、結局このざまである。
せつらの現在位置は、中華料理屋の15メートル手前であった。
「バカせつら」
ぼそっと呟いた。
そして大きな溜息。
「そんなに溜息ばかりつくと、幸せが逃げるそうだが」
「げ」
「こんなところで何をしているのだね?私の患者さん?」
振り返ったせつらの目の前で、メフィストは美しく微笑んでいた。
「そっちこそ。これからデートじゃないのか?センセ」
ああ、その件だが――とメフィストはクスクスと笑った。
「お断りしてしまった」
「お断り?」
「誘ってくれたのはフランス料理だったのだが」
今日は中華の気分だったのでね――
言いながら、メフィストは漆黒の瞳をせつらの背後――推定15メートル先に流した。
「・・・何で此処なのさ」
「さっき、君の診察の時、君が脱ぎ散らかしたコートのポケットからチラリと広告が見えたのでね」
楽しそうな彼の視線の先を、苦々しげにせつらも見下ろした。
おや?とメフィストは呟いた。
「なに?」
「どうやら、お財布を忘れてきてしまったかな?」
「どアホ」
「おっしゃる通りだ」
果たして、それはどちらに向けてであったものか。
せつらは、最後にもう一度大きな溜息をつくと、美しい手をメフィストに差し出した。
「仕方ないから、おごってやるよ」
差し出された手に、美しい手が重ねられた。
「ありがとう」
ささやかに手を繋ぎながら、せつらは、バカせつら、と嬉しそうに心の中で呟いた。
イキアタリバッタリ。
相変わらず、進行に一番驚いているのは私・・・
掘り出し物シリーズ。
上のアトガキも一緒に書かれていたものです。
確か、最初の一言書いてから、勝手に二人が動くのを書いてただけだった気がする・・・
所詮、無計画の烏兎。。。
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