「え?不在?」
診察室のドアを開けて第一声は、その一言だった。
定期的に行われる健診の日。
せつらは、診察室の安い机に着く白い美貌を不思議な顔で見つめた。
「そんなに、主が恋しいかね?」
院長と似通った輝きを放つ白い影――通称「ドクター・メフィストのダミー群総帥」は主に似た仕草で小首を傾げた。
「明日の夕刻まで戻られないが」
「別に」
「では、主に報告しておこう。泣いて喜ぶ」
「人の話聞いてる?」
「何か、愛の伝言などは?」
「おーい」
「冗談だ。早く座りたまえ」
ダミー総帥は、清々しい程美しい微笑みを浮かべた。
この根性悪ダミーめ、などと毒付きながらも、漆黒の青年はコートを脱いで患者用のスツールに腰掛けた。
診察自体は簡単なものだったが、その間のせつらは大人しいものだった。
「随分、静かだな」
「お前だからね」
「主でないとイチャつけない――?」
「・・・。安心ってこと。お前は僕の事、そーゆー目で見ちゃない」
ヤツは嫉妬深い男だからね――とせつら。
主のせつらに対する想いを、どのダミーも持ち合わせていない。
そう云う風に作られている、と言った方が正しい。
「なるほど」
「・・・・・」
「――?どうかしたかね?」
「いい事考えた」
「は?」
正午を時計二周りほど過ぎた時分。
ドクター・メフィストのダミー総帥は落ち着かぬ様子で、風林会館近くの交差点脇に立っていた。
月光を歌う白美の顔には戸惑いの色が浮かぶ。
「ちゃんときたね」
その背後に不意に降り立った美しい黒。
「・・・・せつら」
ダミーは顔を顰めながら振り向いた。
「わ、私は――」
コイビトの作ったダミーは、普段は絶対に見せないようなうろたえぶりであった。
「単に、僕と昼食を“ご一緒”するだけ、っていうんだろ?」
「・・・・君が、命令だと云うから――」
他のどのダミーよりも主を絶対的存在視し、忠誠の態度を示している彼にとっては、主の恋人であるせつらも、また忠誠対象になる――というのが、彼の考えらしい。
と云っても、それが素直に態度に出ているかといわれると、必ずしもそうではないが。
取り敢えず、この辺の偏屈で頑固なところは、主とやらにそっくりだとせつらは常々思っている。
「いいじゃん、偶には。お前とデート」
「だから。デートなどと云うならば、私は帰る」
「まぁまぁ」
いいながら、ホントに踵を返しそうになるダミーの腕を、ケープの上からしっかりと掴んだ。
「・・・主に怒られたら、せつらが責任を取りたまえ?」
「りょーかい」
「・・・・」
未だに不満そうな彼を引きずるように、近くの中華料理の大衆食堂に入った。
「いらっしゃい――おや?先生も。デートですかな?」
2人が入るなりカウンターの奥から店の親父が声を掛けて来た時こそ、せつらを射抜く視線は鋭かったものの、後は大人しく注文の品を平らげたダミーだった。
「そういえば、お前も食べるんだな」
ダミーなのに、という意味でせつらは首をかしげた。
ビニールのテーブルクロスが掛けられたその上には、空いた器が2組。
「当然だ。有機生命体とはいえ、作りはDNAレヴェルまで主と同じだ」
「性格は違うのにね」
「主にも言われる」
「自覚あったのか、アイツも」
「と、云う事なのかな?」
「好みは同じなの?――今日もタンメンとギョーザ」
「それは、私がそうしているだけだ」
「わざとってこと?」
「ふむ・・・そうなるかな?」
「何で?」
「はて」
「・・・・」
お勘定はせつらがして、2人して店を出た。
「ご馳走さま」
「いーよ。・・・それよりさ」
「?」
「お前とこうやってゆっくり話すのって、初めてじゃない?」
「そうかな?」
「うん。ダミーだし、似てるものかと思ってケド、やっぱ、全然違うね。お前とアイツ」
「え?」
「どうして皆、区別つかないんだろ」
「・・・・」
「お前はお前として見てみると、意外と面白いのにね」
思わぬ発見をした子供のように、せつらは微笑んだ。
「・・・・」
「また、機会があったら、一緒に食べよ。面白かった。・・・今度はアイツも連れてった方がいいかな?」
「私の存在がなくなってしまう」
「世話の焼けるコイビトだな」
「全く」
ダミーの同意に、せつらは春風のように笑った。
「お前にいわれてたら、世話ないね」
ふと、こちらを向いたせつらに、ダミーは首をかしげる。
その動きに合わせてさらりと流れる髪の上から、せつらはダミーの額に口づけを落とした。
「――っ!?」
「ははは。じゃーね、ダミ子」
何か言ってやらねば、と混乱するダミーを余所に、せつらは魔鳥のように昼下がりの空へ舞い上がった。
漆黒の姿が見えなくなった後も、ダミーは青い空を見つめていた。
そして、蝋細工のような繊手の先でそっと額に触れた。
「ダミーのはずなのだが・・・・」
小さく呟いた彼は、僅かに朱に染まった頬を隠すように下を向いて、病院へと歩き出した。
美しい髪に隠れた美貌には、幽かな微笑みが浮かんでいた。
せつメフィ前提、せつら+ダミー総帥。
性懲りもなく、ダミ子出てて申し訳ないです・・・
というか、今回は主出て来てませんし(汗)
どうも、烏兎的には「動かしやすいキャラ」なので、ついつい出してしまう訳です。
書いたのは数カ月も前だったりします、実は。
ちょっと、イチャコラさせてみようかなぁと思った――んだと思う(記憶不確か)
ウチのダミーは皆、せつらを「想い人」とは認識出来ない――?
何せ創造主がアレですから。
それでも、そんなダミーもトキメかせる、せつらの色気・・・(色気?)
にしても、「受体質」なのは、主のDNA通り(笑)
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