「はじめまして、せつら」

その男は、実に愉快そうな笑みを浮かべてそう言った。
誰?と問えば、名はありません、と返してきた。
――但し、周りからは「夢盗人」と呼ばれております。
夢盗人?と訊き返しながらも、先程から何か引っかかるな、と思っていた。
――貴方の夢にお邪魔させていただいたのは、ほんの興味に過ぎませんが…
中々困難でしたな、と夢盗人は笑った。
こいつは、どこかで…と思いつつ、僕に何の用?と問う。
すると夢盗人は、待ってましたとばかりに、いえね、と又笑った。
―― 一度、お会いしたかったんですよ。
僕に会ってどうするのだと、夢の中なのに欠伸を噛み殺しながら言った。
何がそんなに面白いのかと言うほど、夢盗人は始終微笑んでいる。
その笑みをさらに深くしながら、ドクター・メフィストは…と呟いた。
彼の口にしたその名前に、思わず反応する。
それを見逃さなかった夢盗人が、意味ありげな視線を送って来た。
――貴方の恋人は、貴方の夢しか見ない。羨ましいですな。
アイツの夢にも入ったのか?と若干強まった声になって訊けば、ええ、まあ…とのん気な返事で返された。
逆に、羨ましいですか?と言われれば、使い慣れた指が勝手に動く。
――おやおや。ドクターの夢の通りの人ですね。
しかし、その攻撃は効きませんよと、夢盗人はクスクス笑った。
――何せ、糸は無いのですからね。
確かに指先には何の感覚もない。
不思議に思っていると、夢なのですからね、と夢盗人が笑った。
――どんなことだって、ありますよ。
確かに夢とはそういうものだ。
――残念ですが、今、貴方の夢は私の自由になっているのですよ。
まあ、一時的に盗ませていただきました、と悪びれもせず続けた。
今すぐ返せという言葉は完全に無視された。
代わりに彼は、夢とは、時に便利なものです、と知った風な事をいった。
――貴方だって、そうでしょう?

「ほら、そんな風に…」

夢盗人はそう言って、せつらの後方へ視線を移した。
釣られて、せつらも振り返った。
――なんと、美しいのでしょうね。
漆黒の闇の中に浮かんだ、純白。
正しく夢のような美貌。
美しく閉じられた瞳の奥で、一体どんな夢を見ているのだろうか。
――彼は、私以上に夢のような存在だ。
夢盗人の言葉は、独り言のようにも取れた。
せつらは、横たわるメフィストから、眼が離せなかった。
――此処は、貴方の夢だ。
あのドクターを、どんな風に抱きたいのですかな?と耳元で夢盗人が囁く。
――ドクターと、そして貴方。この世界には、それだけだ。
ああ、そうだ。他には何もいらない。
――コレが貴方の夢…
夢盗人は、ふわりと横たわるメフィストの傍らまで移った。
――しかし、私が盗んだ夢…
身体は鋼のように重く固まって、ピクリとも動かない。
――ドクターを、頂きましょうか。
夢盗人の、笑みを浮かべた唇が、眠り続けるメフィストのそれへと、ゆっくりと近づいて行った……。




「よ、藪医者」
「おや、せつら。どうしたね?」
「別に」
「…何か、あったのかね?様子がおかしいように見受けられる」
「そう見受けられるのなら、お前は立派な藪だ」
「お褒めの言葉と受け取ってもいいのかね?」
「お前自身が診てもらったほうがいいぞ」
「そのうちに」
「……」
「本当に、何事もないのかね?」
「まーね。…ちょっと夢見が悪かったのさ」
「…夢?」
「……おい」
「何かね?」
「お前は、僕のだ」
「……」
瞳を見開くメフィストに満足し、せつらは診察室を後にした。

掘り出し物シリーズ。
せつメフィ←夢盗人・・・

確か、キリリク頂いた事がきっかけだったはず。そのまま密かにハマっていた夢盗人→メフィ
本当に昔から烏兎の頭の中は不明だ・・・。

夢盗人は(色んな意味で)好きです。
ある意味、最強な気もする――


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