「おい、どういう事だ」
言葉とは不釣り合いな、茫洋とした声音で、せつらは向かいの男に詰め寄った。
問われた男は、聞こえぬ態で、先程届いたばかりの夕刊を広げている。
「いつの間に、何処をどう通ったらそうなるんだ」
尚も尋問の言葉を重ねるせつらに、その男――秋ふゆはるは漸く顔を上げた。
「そんな事、いちいちお前に報告せねばならんのか?」
「そーじゃないけどさぁ」
「ならば、よし。話は此処までだ」
「待て」
「他に何を話すことがある?馴初めでも聞きたいのか?」
「馴初めっていうか」

お前、本当にアイツ――幻十の事好きなの?

恐怖にも似た色を瞳に宿して、せつらは小首を傾げた。
「さて。」
「さて、って。何それ」
「そもそも、好きという感情が、俺にはよく解らんが」
「じゃあ、なんでさ」
「しつこいな。なんだ、妬いているのか」
「まさか」
「仕方なかろう。毎日毎日、店の奥まで来て、日がな一日愛を囁かれてみろ」
好きなモンも嫌いになれるぞ、と仮面の奥でクッと笑う。
「嫌いなの?」
「さてな」
「お前は藪医者か」
「それは寧ろ幻十の方だな。よくも飽きずにアタックしてくるもんだ。感心する」
そういう従兄の声色に、暖かい何かが混じっている事に、せつらは呆れた。
「お幸せなことで。おめでと」
「お幸せかは兎も角、お前もあまり焦らしている様では、本当に手放すことになるぞ」
途端に話の矛先が向けられたせつらは、思い切り不愉快そうな顔を作った。
あの男も中々にモテるからな、と続けるふゆはるは、仮面すら笑っている様だ。
「あいつは藪だから」
自分でもよく解らない切り返しをした従弟に、仮面は苦笑へと変わる。
「だからお前はヘタレなんだ、せつら」
いいことを教えてやる、と、ふゆはるは、細い指を1本立ててみせた。


「今、幻十は魔界医師を口説きに行っている」


「・・・はぁ!?」
「アイツは今日、花屋のシフトが午前中迄だったからな。それから賄いを作って、一緒に遅い昼食を済ませた後出掛けた。
一時間ほど前になるか?意気揚々と出かけて行ったぞ」
「どこからツッコんで欲しい?」
「どこでも」
明らかに笑いを堪えている声で、仮面がどうぞ、とばかりに手を差し出してきた。
せつらは、絶望にも似た色の溜息をついて、降参、とばかりに両手を上げてみせた。

「・・・結局、どうなの?ホントのところ」
「どっちが?」
「両方」
「別に、何とも。幻十は何を言ったって好き勝手やっているだけだろうしな」
営業に支障をきたすような事でもなければ、どうでも――と冷めたお茶を飲んだ。
「アイツが何を企んでいるかまでは知らん」
「それって、付き合ってんの?」
「さあな。まあ、どちらにしろ、お前もそろそろ本気にならんと後悔するぞ、せつら?」
「しないよ」
「どうだろうな。少なくとも、お前が思っているよりも、幻十の誘惑は巧みだ」
「そうだろうね。僕の従兄のオニーサンも落ちたみたいだしね」
「あの藪医者が落ちたら、複雑な関係になるな」
恋人の恋人は、恋人か?――とクツクツ嗤うふゆはるに、ただの浮気だよ、とせつらは興味無さげに答えた。
しかし、その瞳は明後日の方向を見ていた。
先日の定期検診での出来事を思い返しているとまでは、流石のふゆはるにも分からぬ事ではあったろうが。
その麗らかな春に、嵐が起きているであろう事は、容易に見て取れた。

「特別に、留守番でもしていてやろうか」
よっこらしょ、とふゆはるが菓子鉢の煎餅を一枚とる頃には、せつらの姿は三和土にあった。
「10分で戻る」
と告げたのは、どちらの声であったか。
「無くなってるぞ、余裕」
音を立てて閉められた扉に向かって、ふゆはるは何とも楽しそうに呟いた。




先日掘出して吃驚した、ふゆはる×幻十
その、後日談。

なんか、想像以上に後引いた烏兎。

そして、ホント、何年ぶりだっていう小説カキコ(爆)
上手く言葉が出て来ない事に悪戦苦闘しながら書いてみました。

出来上がってみたら、ふゆ幻ではなく、せつメフィ(確か元のは「原作よりのメフィせつ」だった)になったという。
ふゆはると幻十の間は、ちょっと独特な愛だといいな、と思う烏兎。
当人たちがイチャコラするより、自分たちをネタにせつらをからかったり。

あれ、何か、落ち着いた熟年夫婦のようだ。
そして、息子の恋愛を見守っている(笑)

何にしても、ご粗末様でした。



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