「ところで――」

ここは、〈新宿〉の一角。
魔界都市一の人捜し屋は、魔界都市一の情報屋の元を訪れていた。
請求分の情報を受け取り、逃げるように背中を見せたせつらに、情報屋のお声が掛った。
せつらは、入口を向きながら答えた。
「・・・・・・・・・・・・・なに?」
「ふふふ。いい情報持ってんだけど、いらない?」
「必要なものは貰ったけど」
「それとは関係ないよ。寧ろ、おまえさんに関係あるね。」
今なら半額サービスするよ、ぶう――などと珍しいことを云うものだから、思わず振り向いてしまう。
「タダならいいな」
「それじゃ、情報屋の意味がないだろ?これでどうだい?」
云いながら、肉塊――否、彼女はフランクフルトのような指を三本立てて見せた。
せつらは、黙って美しい指を一本立てた。
それを見て、情報屋はぶうと唸って、しぶしぶ指を一本減らす。
珍しいな、と思いながら、せつらは頷いた。

「あんたの従兄と幼馴染が、最近くっついたよ」



「――それで、そんなにイライラしているのかね?」
ここは、元の新宿区役所に位置するメフィスト病院の診察室。
魔界都市一の人捜し屋は、魔界医師による定期健診に来ていた。
情報屋を出て、その足でここまで来たのである。
「おまえ、楽しんでるだろ」
せつらの背後の白い医師からは、珍しく楽しそうな気配が伝わってくる。
「幼馴染はともかく、君の従兄もなかなかの男だったようだな」
「どこがだ」
云いながら、せつらは椅子を回転させて、メフィストに向き合った。
今日の診察は以上である。
メフィストはカルテに何か書きこむと、医者の声で、異常はない、とだけ云った。
せつらが下唇を突き出して不貞腐れてみると、案の定、彼は愛おしそうな微笑を浮かべた。
遊び安い男である。
「にしても――。あの“ふゆ兄”がねえ・・・」
「ふゆ兄?」
せつらの言葉に、メフィストは眉を顰めながら小首を傾げた。
肩に掛かっていた漆黒の髪がさらりと滑り落ちる。
「昔、幻十の方がそう呼んでたんだよ」
「――?昔から知り合いだったのかね?」
「幻十がまだ土ん中に潜る前ね。アイツ、僕のことは初から避けられてたから、あんま話さなかったけど。
幻十の方は、割と懐いてたみたいだったな」
「ほう・・・。それで“ふゆ兄”かね?」
「2こ上だし」
メフィストは、せつらの話に今にもくすくす言い出しそうに云う。
「幻十も可愛いらしいな」
「あ。この浮気者」
「残念ながら、まだお付き合いの申し込みは許可を得ていないのでね。今のところ、無実だ」
「屁理屈男」
「そもそも、私が恋慕っているのは――」
「私、だろ」
「その通りだ」
変態藪医者め、と舌を出してやると、メフィストは満足気に笑った。
遊ばれている気がする。先程の仕返しだろうか。
「とにかく、何企んでるんだ、あの二人は」
「次を。」
考え込むせつらを余所に、メフィストはインターフォンにそう呼びかけた。
慌てて椅子から立ち上がったせつらに、彼はひどく上機嫌に云った。

「それほど気になるのなら、直接当人に訊きたまえ」



「――え?」
メフィストの言葉を処理しきる前に、背後のドアが開く気配がした。

「調子はどうかね?――幻十君」
「げ。」
「お蔭さまで」
美しい微笑を浮かべた幻十は、驚いているせつらを余所に、今の今までせつらが座っていた椅子に腰をおろした。
「それはそれは」
「幻十・・・?」
「――ん?」
幻十は、今やっと気がついたかのように、傍らに立ち尽くしているせつらに目を向けた。
「なにか?」
「なにか?って・・・何でここに?」
「君と同じく、先生の定期健診を受けに」
「定期健診!?」
「ふゆはるに云われてね」
「ふゆはる!?」
鸚鵡返しを繰り返した後、ふと引っ掛かりを覚えた。
「――っ!!メフィスト、貴様――」
親の仇でも見るかのようにメフィストを見れば、彼は彫刻のような指を口に当てて俯いている。
表情こそ見えないが、その肩は微かに震えている。
「この裏切り者」
せつらはせめてもの復讐に、心底憎らしそうに吐き捨てた。
どうやらこの悪魔の名を持つ医師は、芯からその如くらしい。
何処を斬ってやろうか、などと考えているうちに、漸くメフィストが顔を上げた。
白い美貌は、明らかに隠しきれていない笑情が浮かんでいる。
「因みに、代金は全てふゆはる持ちになっている」
「いい度胸してるな、メフィスト」
「はて」
「もう二度と、お前なんかとお茶するか」
「それは残念」
「・・・・・そう思ってないだろ」
「今度は、本命をお誘いしてみよう」
「裏切り者め」
「だから。私は最初から私と名乗るせつらの側だ。君ではない」
「このウスラトンカチ」
「あの――」
暫く二人の痴話げんかを見ていた幻十が、漸く口を挟んだ。
「診察して貰っても?」
「失礼した。始めよう」
そう言ってさっさと始めてしまうメフィストに、せつらは忌々しげに睨みつけて、診察室を後にした。






掘り出し物シリーズ。
何を思ったのか、ふゆ幻・・・(汗)

今の烏兎には当時の思考回路が解らん。――ので、一緒に、後書もあったので、一部抜粋。


今回ふゆさまの方が出てきませんでしたが――
幻十ちゃんの方からアタックして、ふゆがそれをOKした感じです。
ちょっと原作無視して、ふゆの方が2つ年上ってことで。
――って、ただ単に「ふゆ兄」って可愛いな、と思った程度なのですが。
昔は、本人の前では「お兄ちゃん」とか呼んでたり?(萌)
あぁ、守備範囲広くなったなぁ・・・
あと、ふゆが検診代を払ってるのは、幻十さまが(現金では)支払しないからです(笑)



だ、そうです。




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