せつらは、白い廊下をゆるゆると歩いていた。
ここは、メフィスト病院最上階、八階である。
彼の目指す先はこの階にある「特別病室」であった。


彼自身、滅多に近づかぬ空間であった。


せつらは「特別病室」の豪華な扉を開いた。
見るからに贅沢そうな、それでいて、決して悪趣味にはなっていない部屋であった。
せつらにとってはしかし、この部屋を作った人物が一番悪趣味だろうと思う程度でしかない。
せつらは軽く部屋中を見渡すと、無駄に豪華な寝台に倒れこんだ。



せつらは、下の売店で購入した『犯罪月報』から部屋の扉へと視線を移した。
すぐに、扉が叩かれる。
特に返事をするでもなく、せつらの視線は再び『犯罪月報』へ戻った。
扉が、音もなく開かれ、そして音もなく閉じられた。
「どうかしたかね?せつら」
名前を呼ばれ、さも今気がついたかのように、声の方へ視線を流した。


そこに。


美しい男がいた。

これほどの部屋でさえも、さらに美しさの増す男であった。

「べつに」
それだけ答えて、また視線を戻す。
彼も、それ以上は特に何も言わない。
何か企んでるのかな、とちらっと彼を盗み見たが、彼は丁度ソファに腰を下ろすところであった。
その顔は、どことなく安堵の色が浮かんでいた。



ふと、雑誌を読み終えて、気がついて見ると、白い男は相変わらずソファにいた。
まるで極美の彫刻のように、その瞳を閉じたまま微動だにしない。
せつらは、そっと寝台から起き上がり、彼の元までいった。
それでも彼に瞳は閉じられたままである。
せつらは、ただその姿を見つめていた。

ゆっくりと、あまりに整い過ぎた瞼が開かれ、深蒼の瞳が夕陽の中に煌めいた。
無表情に見下ろすせつらに、彼の瞳の闇が真っ直ぐ向けられる。
その色はいつもより優しく、少しだけ悲しい。
その微笑みは、何よりも美しい。
傾き始めていた夕陽が、せつらの前に陰を落としていた。
その美しさを、隠すかのように。
陰に沈むその輝く姿は、ただ美しかった。

「帰る」

せつらは言った。
彼は、瞳の色を変えながらも頷いた。

「いつでも来たまえ」
「気が向いたら」

いつもと変わらない。いつも通りの、決まり事のような遣り取りであった。
せつらは無表情に。彼は微笑で。
窓外の夕陽は、徐々に蒼を広げていく。
彼が動かないのを見ると、せつらは部屋の扉を開いた。












せつらサイド。
解り難くなってしまいましたが、気付いていただけたと思います。
実は2人とも、本人が思っている以上に、相手の事が好き――こんな感じの2人が好きです。
でも、最後のところでチラッと、私と名乗るせつらさんを出しちゃうあたり、私(烏兎)って感じがしますね。“私せつら”大好き!!

お互い、2人でいる時が休息の時・・・


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