むかしむかし
あるくにの はじっこに
ちずにも のらない
ちいさな むらが ありました
むらびとは わるい さぎしに だまされていましたが
ふたりの うつくしいひとに たすけられたのです
むらびとは くちぐちに いいました
あんなに うつくしい くろ と しろ を みたことがない と――
「あまいなぁ。メフィストは。」
「なにがかね?」
よく晴れた東京の空の下。
よく、こんなところを走っているといいたくなるほどの古びたトラックの荷台に、まったく似つかわしくない二人組が乗り込んでいた。
運悪く二人を目撃した対向車が、次々に道を外れていく。
後ろを走っていた車は、随分前に並木に突っ込んで、それきり後続車がくる気配がない。
「“セイゲン様”のことだよ。」
セツラは多少不機嫌そうである。
始末しちゃえばよかったのに――と、春風の長閑さを感じさせる美貌で、とんでもないことを言った。
「あれは、あれで役に立つこともあるだろう。村人にこってり絞られて一度懲りればいい。」
向かい合うようにして座るメフィストは、手元の本から目を離さずに言った。
厚さが30センチ近くある。
「・・・・・・何読んでんの?」
「辞書だ。和英。」
いつ出たのだよ――と嫌そうに、ボロボロの表紙を見詰めた。
メフィストは気にも留めずに、
「多少は日本語を覚えねばならんだろう。」
「うーん。それで、辞書を読む人はいないだろ。」
ふと、本を閉じると、
「そっちに行ってもいいかね。」
答えも聞かずにさっさとセツラの隣に座りなおす。
「荷のバランスはとった方がいいんじゃない?」
「安心したまえ。私はさほど重くない。」
セツラの腰に抱きついた。
コラコラ――といいつつも、セツラは特に拒絶しない。
「16歳に手を出したら、犯罪かなぁ。」
「推定16――だ。」
精神年齢は20以上だと自負している――と何でもないことのように言うメフィストに、セツラはそっとほほ笑んだ。
「何にせよ、ようこそ――と言うべきかな?」
「?」
トラックが凄まじい音を立てて止まった。
「ありがとうございました。」
「いやいや、こちらこそ。」
何故か運転手に感謝されつつ、二人はトラックから降りた。
二人の目の前に、長い長い橋が架かっている。
“新宿”西新宿ゲート。
セツラは、橋を背に立って、片手を胸にあてた。
「ようこそ。“新宿”へ。」
軽く身を折るその姿は、妙に様になっていて、メフィストの口元をほころばさせた。
「よろしく。」
差し出された美しい手を、同じぐらい美しい手が取った。
世界を作った黒と白に最も近い黒白が、並んで歩き出す。
美しいその二人を、“新宿”は静かに受け入れた。
長い間、お付き合いありがとうございました。
サン○ラの楽園/幻/想物語組曲を聞きながら、突発的に思いついた設定から。
脳内が、常に突拍子もない妄想ばかりなので、また、こんなのを書くかもしれません。
見捨てないでくださいね。(笑)