「……で?」
そろそろ、太陽が真上に来ようという時分。
六畳ほどの平凡な部屋には、非凡な3人組の姿があった。
眩暈がするほどの美しい純白の医者。
その医者によく似た小さなウサギ。
そして、仮面の男――。
AWSフラワーの店の奥の一室で、ふゆはるは絶望的な溜息をついた。
「なぜ、此処へ来る?」
異様な小動物を見つめながら、ふゆはるはメフィストに言った。
「ふむ。いざデートだと言って外へ出たはいいが――悲しいことに、デートなどしたことがないのでな」
「だからと言って家に来るな。家は花屋だ。――どちらかというと、デートの前に寄るところだ。」
「なるほど」
そういいながらも、全く動こうとしないメフィスト。
そんなことだろうと、最初から諦めてしまっている自分に嫌気がさすふゆはる。
突然現れた珍客を追い返すことに失敗したふゆはるは、客人らにお茶を出し、状況説明を聞かされる羽目になった。
「というか、流石は藪医者だな。いよいよサボりを覚えたか」
一通り話を聞かされた後、ふゆはるは一先ず、医者にささやかな嫌味を吐いた。
「……じつは、そこを突かれると、幾分心が痛い」
「……おまえ、クラス委員長タイプだな」
「…?まあ、彼がいるから安心だ」
「ダミーか。あいつこそ委員長タイプだな――あるいは風紀委員…」
「皆、ダミーの方ばかり褒めたがるな」
「それはダミーがいいというより、おまえが最悪なだけだな」
ぱたぱた、と、ふゆはるの視界の下方で、白いものが動いた。
「おお。メッフィー殿が不貞腐れてるぞ、藪医者。エスコートがなっていないな」
話に入れていないことに不満を感じたのか、もふりとした重たそうな耳が、存在を主張していた。
「これはこれは。失礼した」
「エスコートもロクに出来んようだから、本命にも嫌われるんだぞ、メフィスト」
「そのようだな。――ふむ、となるとエスコートしてもらう方がいいか――?」
「……勝手にしろ」
ともかく――と、不機嫌そうに耳をパタパタさせているウサギの頭に、メフィストは優しく手を置いた。
ホントに溺愛してるな、こりゃ――と内心で呆れつつも、何となく微笑ましい図に、ふゆはるも仮面の下で頬を緩ませた。
「でーと、と言っても――生憎俺もしたことがないのでな」
「おや?意外だな」
「それはよかった――てっとり早く、ご本人様に聞くのが一番いいんじゃないか?」
「ふむ、なるほど」
「他に、そんなこと解る奴なんて――」
「こんにちはー!!」
奴は、タイミングを計っていたに違いない。
ふゆはるは、心の底から忌々しく思いながら、その男を見上げた。
そもそも、誰の許可でこの部屋に現れたのか――
漆黒の影は、実に明るく元気よく侵入してきた。
「……何の用だ、幻十」
「おや」
「!!」
また面倒くさいモンが出やがった――と舌打ちするふゆはる。
どちらかといえば機嫌よく、純粋に驚いた、という感じのメフィスト。
突然の「大好きな人」の登場に心から喜び、耳を激しくパタパタさせるメッフィー。
そして、当の侵入者は、そんな三者三様の反応を見て、実に楽しそうに微笑んだ。
「ふふふ。やあ、メッフィー、ごきげんよう」
可愛らしい微笑みを浮かべながら、幻十はメッフィーの横に腰を下ろした。
げんと!!――と、うれしそうに飛びついたウサギは、そのまま幻十の膝に収まった。
「誰も座っていいとは言ってないぞ、幻十――それ以前に、不法侵入だ」
「大丈夫だよ」
「何がだ」
「これは、ドクター。ごきげんよう」
「ごきげんよう、幻十君」
「何気に、和やかに挨拶交わすな、そこ」
文句を口にしながらも、ふゆはるは新たなお茶を出すために、よいこらしょ、と立ち上がった。
「入って来る時にちょっと耳にしたんだけど。何だか楽しそうな話、してるみたいですね、ドクター」
「ふむ」
「ドクターもサボるなんてこと、するんですねぇ」
クスクスと苦笑にも似た笑みを浮かべながら、幻十は言った。
「入って来るのに、ずいぶん時間がかかったようだね、幻十君」
「やだなぁ。ココに来たのは、今さっきですよ。糸は随分前からでしたけど」
気づいていたんでしょう?――と幻十は不敵に笑った。
さて?――と、同じような笑みを浮かべて、メフィストは優雅に小首を傾げた。
「それより。聞いていたのなら、何かご意見はないかね?」
「デート、ですか?そうですねぇ・・・」
「おまえの提案の9割は否決だな」
お茶の乗ったお盆を片手に、ふゆはるが戻ってきた。
「王道といえば、やっぱり某キャラクターのランドですかね」
「夢の国というやつだな」
「中央の城って泊まれるんですよね?」
「ほう?」
「もう、俺はツッコまんぞ」
「ツッコミがいなくなったら、此処はもう、収拾つかなくなるよ」
「もう、収拾なんぞついてない」
冗談はともかく、真面目に事を考えるのだとして――と幻十は少し考える仕草をした。
「どうせ、半日ほどしか時間は無いのでしょう、ドクター?」
「まあ、そうだな。夜には帰ると言っていた」
幻十は、膝に座っているウサギの耳をもふもふと弄びながら、だったら――と呟いた。
「だったら、買い物、なんてどうです?」
「……で?」
ふゆはるは、本日十何度目かの大きなため息をついた。
夕方といわれる時間帯に差し掛かり、あたりも徐々に赤みがかって来た頃。
ゆっくりと傾いていく陽の中、恐ろしい取り合わせの四人組が、魔界都市の一角を歩いていた。
その歩みは、白い医師の横を歩く小さなウサギの歩幅に合わせているために、幾分ゆっくりとしたものだった。
ふゆはるは前を歩く親子のような2人組を見つめたまま、横にいる幻十に呟いた。
「結局、オレが引っ張り回された意味はあったのか?」
ふゆはる宅で、「買い物」という幻十の案が賛成3無効1で可決された後、何故かふゆはるも巻き込んだ四人は、こうして〈新宿〉に繰り出したのだった。
幻十のチョイスしたコースは、割と「デート」らしかったといえる。
取り敢えず腹ごなし、と近くの喫茶店に入り、店中を混乱させながら和やかに昼食。
その後は、映画館で仮面――というより全身武装したライダーの映画を鑑賞。
最近有名なスイーツ店で、人気のショートケーキを食しながら休憩。
洋服店で、メッフィーの服を何着かコーディネート。
そしてつい今しがた、玩具店でメッフィーが強請った玩具を購入した。
不平を漏らしたふゆはるに、幻十は、今更?と苦笑した。
「でも、中々こういう機会はないでしょう?」
メッフィーもふゆと一緒で楽しかったよね、と問う幻十に、メッフィーは此方を振り向いて耳をパタパタさせて答えた。
その小さなウサギは、買って貰ったばかりの玩具を大切そうに抱きしめている。
「しかし、メッフィー。敢えてソレを選ぶって…。せつらが泣くね」
何でも好きなものを買いたまえ――という親バカのようなメフィストのセリフに、メッフィーは迷わずソレを選んだ。
沢山の玩具が並ぶ中、メッフィーが選んだのは、いわゆる「お医者さんセット」であった。
形ばかりの聴診器やら注射器、薬袋などが、プラステックのケースに入っている。
「?」
幻十の言葉の意味が解らない、といった様子でメッフィーが首を傾げてみせる。
「ちゃんと解っている、という事ではないのかね?」
「何をだ」
気色悪いほど上機嫌のメフィストに、ふゆはるはガックリと肩を落とした。
「メッフィーは、私の商売敵かな?」
クスと微笑みながら、メフィストは囁いた。
しかしメッフィーは、何かを主張するようにメフィストのケープをぐいっと引っ張った。
「おや?違うのかね?では、同志、かな?」
大きなウサギの耳がうれしそうにパタパタと動く。
「では、これからも宜しく、といったところかな、小さなドクター?」
そんな2人を後ろから眺めながら、ふゆはると幻十は顔を見合わせた。
呆れた様なふゆはると、苦笑を漏らす幻十。
この街でも稀有な1日は、思いがけず和やかに過ぎていった。
本題、丸抜け・・・。
デートのトコ書かないんかい!
伯様より666hitのキリリクで、「メッフィーで何か」という事で書いてみました。
――が。
文にすると、メッフィーあんま目立たない!?(汗)
というか、他の奴ら(主に脇役2名)が目立ちすぎる・・・
私語ばっかしてて、一向に進まない。
でも、その「私語」書くのが好きな烏兎・・・
伯様。
キリリク、大分時間かかってしまって、ホント申し訳ありませんでしたっ;;
こんなモンでよかったら、お受け取りくださいませ。
そして、お詫びにオマケの絵をチラチラ・・・→