「ねえ、紅茶かコーヒーは無いの?」

ただ広いだけの部屋の中央に胡坐をかきながら、声の主は美味そうに緑茶を口にしていた。

開け放たれた障子の外側から、漸く涼しくなった秋風が吹きこむ。

風に弄ばれるようにサラサラと銀色の光が煌めくのを、雲雀は眩しそうに見つめていた。

「ねえ、聞いてる?」

純和風の殺風景な和室には不釣り合いな銀髪の男は、不満げに呟いた。

「聞いてるよ、アラウディ」

雲雀の視線に気づいていないはずがない癖に、素知らぬ顔をして茶を飲むアラウディに、雲雀は苛立たしげに溜息をついた。

「色々文句を言う割には、しっかり飲んでるじゃない、それ」

「別に、これが悪いとは言っていない」

「あ、そう」

こんな会話は、今に始まった事ではない。

眼の前の男は、時たまふらりと現れては、こうして雲雀の部屋でお茶を飲んでまた消えて行く。

その度に雲雀は緑茶を出し、アラウディは文句を言いながらも湯飲みを空にする。

ここ最近の、雲雀の日常であった。

 

「ねえ、貴方さぁ」

雲雀は色づき始めた庭の紅葉を見つめながら、ふと口にした。

「何がしたいの?」

「何、とは?」

「ここ、僕のうちなんだけど」

「知ってる」

「何でそんな我が物顔で居座ってるの?」

「特に、我が物だとも思っていない」

「そういう問題じゃないんだけど」

中身が空になったのか、アラウディは無駄のない仕草で湯飲みを置いた。

それが合図だとでもいう様に、雲雀はアラウディの方を振り返る。

「お茶代に、少し殺り合おうよ」

「前にも言ったけど、君みたいな子供には興味ないよ」

弱いからね――と不敵に笑う。

その表情が、雲雀の中の何かを掻き乱す。

 

 

「……っ」

ドン――

気がつけば、雲雀の目前には青い畳に透ける様な銀髪を散らしたアラウディがいた。

整った顔には、好奇な笑みが浮かんでいる。

「…っ貴方、さぁ」

力任せにアラウディを押し倒した雲雀は、両手で彼の肩を畳に縫い付けたまま呟いた。

「ねえ、僕のものに、なりなよ」

「弱いものに、興味は無いと、言ってるだろう?」

アラウディの声は静かだが、どこか、いつもの冷たさや鋭さは無い。

寧ろ――

「すぐに、強くなるさ」

雲雀は、長身の男を思い出していた。

あの男の人を食ったような笑みは、自分よりも寧ろ今自分が押し倒している男に似ている。

そんなことを頭のどこかで考えながら、雲雀は言葉を続ける。

「強ければ、僕のものになってくれるの?」

そんな雲雀を、アラウディは不思議な笑みを浮かべて見つめた。

「そういう事は、強くなってから言いな」

「・・・・・」

「彼くらいの強さなら、興味があるね」

「そ、う」

「そう答えれば、君は満足?」

彼は、自分自身で――

「だったら、それでいいんじゃないの?」

言葉を紡ぎだせない雲雀に、アラウディは楽しそうにクスリと笑った。

そして雲雀の肩を、触れる程度に押した。

抵抗もせず、雲雀は誘われるように身を引く。

起き上がったアラウディは、ゆるりと障子の向こう側へ目を移した。

「ああ…。そろそろ帰る」

「うん」

雲雀の声が届いたか否か――ふわりと冷たい風が舞い込んだ。

広いだけの部屋に、雲雀は独りきりになった。

 

「いつになったら、僕を見てくれるのさ?」

 

呟きは、かすかに残る緑茶の香りに中に消えて行った。

――ここ最近の、雲雀の日常だった。