「ねえ、紅茶かコーヒーは無いの?」

割と嫌いではない、仄かな香りのお茶を口にしながら、アラウディは呟いた。

開け放たれたままの障子の外から心地よい冷風が流れ込んでくる。

その風に乗るように雲雀の視線が向けられている事に、アラウディは気付かぬ態でお茶を飲んでいた。

「ねえ、聞いてる?」

「聞いてるよ、アラウディ」

不満の声音で再度語りかけると、漸く苛立たしげな反応が返って来た。

「色々文句を言う割には、しっかり飲んでるじゃない、それ」

「別に、これが悪いとはいってない」

「あ、そう」

思い通りにならない事に拗ねて、雲雀はフイ、と障子の外側を向いてしまった。

そんな子供のような仕草を、アラウディはそっと見つめる。

不意にふらりと雲雀の部屋に現れては、お茶を飲んでまた返る。

その度に雲雀は緑茶をだし、アラウディは文句を言いながら湯飲みを空にする。

ここ最近の、アラウディの日常であった。

 

 

「ねえ、貴方さぁ」

庭の方を見つめながら、雲雀がふと呟いた。

「何がしたいの?」

「何、とは?」

「ここ、僕のうちなんだけど」

「知ってる」

「何でそんな我が物顔で居座ってるの?」

「特に、我が物だとも思っていない」

「そういう問題じゃないんだけど」

中身が空になった湯飲みをアラウディはそっと下に置いた。

それが合図だとでもいう様に、雲雀はアラウディの方を振り返る。

「お茶代に、少し殺り合おうよ」

「前にも言ったけど、君みたいな子供には興味ないよ」

弱いからね――と不敵に笑って見せる。

その反応に、雲雀が複雑な感情に顔を顰める。

 

 

「……っ」

ドン――

アラウディの視界は、異国の部屋に合う漆黒の髪と瞳の少年に変わった。

僅かに遅れて、背中に軽い衝撃が広がる。

予測も反応も出来ていて、敢えてアラウディはその流れに身を任せた。

整った顔には、焦燥の色が浮かんでいる。

「…っ貴方、さぁ」

強い力で肩を押さえつけられたまま、アラウディはその言葉に耳を傾けていた。

「ねえ、僕のものに、なりなよ」

「弱いものに、興味は無いと、言ってるだろう?」

「すぐに、強くなるさ」

雲雀の言葉に、アラウディは長身の男を思い浮かべた。

あの男の鋭く澄んだ瞳光は、この少年の瞳にも強く煌めいている。

「強ければ、僕のものになってくれるの?」

こんなにも真直ぐな欲望に走る雲雀を、アラウディは愛おしげに見つめた。

「そういう事は、強くなってから言いな」

「・・・・・」

「彼くらいの強さなら、興味があるね」

強さ――と言うのなら、その差は大きい。

「そ、う」

確かに彼自身なのだが――

「そう答えれば、君は満足?」

答えは、返って来ない。

それでもアラウディは、それで十分だとでも言う様に、クスリと笑った。

言葉を紡ぎだせないままの雲雀の肩を、アラウディはそっと押した。

抵抗もなく、華奢な身体が引いていく。

起き上がったアラウディは、視線を障子の外へと移した。

「ああ…。そろそろ帰る」

「うん」

耳に届いたのは、雲雀の声だったのか、舞い込んだ秋風だったのか――。

 

「いつになったら、見ている事に気づいてくれるのかな?」

 

呟きは、口内に残る緑茶のように、僅かな苦みがあった。

――ここ最近の、アラウディの日常だった。

 

 

 




随分前に書いて、UPした気になっていたもの。
どうしてこうなるんだろうな(攻受的な意味で)と思いつつ。
でも、最近、微妙に増えてない?と喜ぶ烏兎・・・・